AIが答えたカルト問題の解決 教育や宗教的教化には不向き
北海道大教授 櫻井義秀氏
チャットGPTという対話型人工知能がある。2022年にアメリカのOpenAIが公開した自動文章生成機能であり、無料で使える(使用履歴は会社が収集して改良に利用する)ので、わずか2カ月で1億人が利用したとされる。どの程度のものか、私も試してみた。
英語サイトで、「カルト問題を解決するために何をすべきか?」と入力したところ、数秒で回答が出てきたので紹介しよう。
カルト問題の解決は難しいが、ステークホルダーの状況を考慮した包括的なアプローチが必要というまえがきの後に、七つの処方箋が出された。
①啓発活動
②支援の提供
③法的規制
④カルト団体との対話
⑤代替的な居場所の提供
⑥批判的思考力の涵養
⑦カルト団体の研究
である。市民がカルトに関わる状況は複雑であり、これをやれば絶対解決するというような方法はないが、問題状況を改善することはできるという。
驚いた。回答の目配りに過不足がないという意味で、大学のミニレポートとしてBプラスは与えられるだろう。そこでさらに独創的なやり方で問題の改善を図りなさいと指示すると、さらに六つの処方箋が追加された。
①批判的思考力を養う教育
②ナラティブ療法
③ITを利用した自助グループの形成
④カウンセリング
⑤コミュニティーの強化
⑥芸術で癒やしと回復を図る
レベルが高い。評価はAに上げざるをえない。情報の収集と分析、集約はAIが人間を凌ぐ。テレビの情報番組やネットメディアのコラムなどは、評論家の代わりにAIが回答や執筆した方が、気が利いているかもしれない。欠点を挙げれば、逆説的だが、あまりに情報縮約的・模範的すぎる。
いったいこれらの処方箋のうち、誰が、どの社会が、いくつ試せるのだろうか。予算的制約や、地域文化的、歴史的諸条件を付け加えれば、さらに申し分のない解答が出るかもしれないが、問題は依然として解決されない。これらの処方箋は一つとして簡単ではなく、実際に効果があったケースがデジタル情報化されていない場合が多いのである。だから、AIにはお手上げとなる。
AIロボットに教育や法話を任せたらどうかという試みがある。DX(デジタル・トランスフォーメーション)の時代、このくらいはったりをかませた方がメディア受けもよい。
残念ながら、人間はAIほど模範的でも勤勉でもなく、聞く耳も持たないことがしばしばある。あまりに個性的なのだ。AIで人間を賢く管理・指導していくという道筋も出てきているが、教育や宗教的教化には向かない。対機説法が依然として有力だし、感化なしに人はやる気にならないのではないか。
ちなみに私は学生のレポートはやめて、一人一人に口頭試問をやろうかと考えている。チャットGPTはコピペでないだけにチェック・ソフトも効かない。顔を突き合わせて学生と話し合うのがもっとも生産的でクリエイティブな時代になるのではないだろうか。