PR
購読試読
宗教と文化の専門新聞 創刊1897年
今年度「宗教文化講座」中止のおしらせ
PR
宗教文化講座中止のお知らせ 墨跡つき仏像カレンダー2020
第16回「涙骨賞」受賞論文 本賞

近代日本における「明治維新」と仏教

―「勤王僧」月性の贈位をめぐって―

髙橋秀慧氏
(4)三十三回忌法要と贈位

月性の三十三回忌は、過去の年忌法要と比べて大きな変化が見られる。すなわち、1890(明治23)年6月の有栖川熾仁親王による墓参2323有栖川宮熾仁親王の墓参について、年譜では明治24年5月とされているが、『熾仁親王日記』によれば、明治24年5月は、京都にあって大津事件の対応に尽力しており、山口を訪問したとの記述はない。一方で前年の6月に、熾仁親王は対馬と山口の巡閲を命ぜられ、山口では、軍司令部の訪問や、吉田松陰の老母に面会したほか、萩や山口で寺社仏閣や史蹟の観光も行っている。6月27日には月性の郷里に近い柳井の醤油商佐川仲三郎宅に宿泊し、翌28日午前8時に柳井を出発、由宇村(現岩国市)で休憩を取って、午後1時には岩国へ到着している記事が見られる。月性墓参については日記の記述上は確認できなかったが、本論史料3の記事から、熾仁親王が28日に月性の墓参をしたことが確定でき、年譜の記述は誤記である。なお、伊藤博文については、自筆書名と「辛卯」が記載された書が清狂草堂に奉納されており、同地内の月性展示館(https://www.city-yanai.jp/site/kanko-shisetsu/gesshotenjikan.html)で今も見ることができる。、祭祀料下賜、同年10月の三十三回忌法要と清狂草堂の建立、翌1891(明治24)年9月の伊藤博文による墓参、そして同年12月の正四位贈位、1892(明治25)年の『清狂遺稿』刊行と一連の出来事が、明確に月性の「顕彰」を意図した連続性のあるプロジェクトになっていたのである。まずは、複数の史料から三十三回忌法要前後の経過を確認する。

【史料1】2424『東京朝日新聞』(朝刊)(明治23年7月13日)。
 金円下賜
 維新前身緇門に在りながら、勤王の大義を唱えて国事に奔走せし清狂道人月性師の遺族へ、今度宮内省より金五十円を下賜せられし由。
【史料2】『令知会雑誌』第76号(明治23年7月23日発行)2525『令知会雑誌』は、中西直樹・近藤俊太郎監修2017『令知会雑誌』復刻版全7巻、不二出版を参照。以下同様。
 ○清狂草堂の建設并遺稿上梓
 周防の故月性師が、身桑門にありながら、心を国事に傾け、当時士気の不振を憤り、遍く天下を遊歴して、名儒英傑と交わり、外夷の侵寇を慮り、我国海防の急なるを説き、大に其方術を講じ、一時朝野の重んじる所となりしも、中途病を以て没せり。然るに今年は師が三十三年の忌辰に相当するを以て、師が門下に在りて、親しく其薫陶を受けし、大洲鉄然、天地雄哲、秋元休吾の諸氏発起となりて広く四方の浄財を募り、彼の有名なる清狂草堂を再興し、師が遺稿をも并せて上梓し、当時諸名流との往復詩文等を永遠に保存する由、尚来る十月二十日其追薦会を師が郷里に催ふ事に付追薦の詩文をも募集すると云ふ。
【史料3】2626『読売新聞』(朝刊)(明治23年8月16日)。
 ○月性師の三十三回忌
 男児立志出郷関という詩を賦したる有名の勤王僧月性師の、没後本年は其三十三回忌に相当するよしに付、来る九月初旬を期し其本国なる周防遠崎妙円精舎の傍ら、師が墓前に於て彼の清狂草堂を起し併せて遺稿若干編を刻し以て其追薦に充つるの計画ありて、尚来る九月三十日を以て追薦文詩歌及画を募集し、十月廿日を以て法筵、雅筵、饗筵を開くとの事なり。其詩歌書画及び喜捨金の受領所は、東京麹町中六番町島地黙雷、西京東中筋花屋町下大洲鉄然、周防玖珂郡遠崎村秋元休吾の三氏なりと云ふ。因みに記す、本年六月二十日年祭に際し宮内省よりは思召を以て祭粢料金五十円を下賜せられ、尚同二十八日有栖川宮親王殿下防長御巡覧の路次態々車を清狂草堂に駐めさせられ、其の墳墓へ香花料として金若干圓を贈らせられたりと。

上記史料を踏まえ、三十三回忌に関連する顕彰事業(以下「顕彰事業」という)をまとめると以下の内容となる。

①月性の三十三回忌法要を故郷で開催する。
②法要に併せて、清狂草堂を建立し、『清狂遺稿』を刊行する。
③詩歌、書画、喜捨金等を募集する。
④発起人は月性の門弟である大洲鉄然、天地雄哲、秋元休吾の3名で、③の提出先は東京の島地黙雷、京都の大洲鉄然、周防の秋元休吾がそれぞれ担当する。

上記の基幹となる計画に加え、先述のとおり有栖川宮熾仁親王の墓参、祭祀料下賜、伊藤博文の墓参があり、これらは贈位を前にして、現政権の要人と月性との関係性を地域社会に示し、偉人としての月性の権威を高める作用をもった。

さて、この時応募された作品は、目録によれば145件・156点で、現在も柳井の月性展示館に保存されている。その内容は、月性追弔の祭文や、月性剣舞図を見た感想、『浮屠清狂伝』を読んだ感想などで、投稿者名や住所を見る限り応募者は僧侶だけでなく、一般在家者や神職とおぼしき名前の者もいた。また山口県域に限らず、各地から応募があった。中には、清水寺の勤王僧月照と間違えて月照の事蹟を讃える祭文を応募した者もあった。

そして、顕彰事業の宣伝は、管見の限り、東京朝日新聞では上記のほか同年9月中にさらに2回、月刊誌である『令知会雑誌』では76号から82号まで毎月関連記事が掲載されている。特に『令知会雑誌』では、当初は計画概要や公募の提出先などの情報提供がなされていたが、後半には応募された作品に関する情報が掲載されるようになっていた。

さて、こうした大がかりな行事の翌年、月性はいよいよ国から正四位の贈位を受けることになる。幕末維新期における殉難者に対する贈位は、1889(明治22)年、大日本帝国憲法の発布に関連して、西郷隆盛(大赦の上贈位)・藤田東湖・吉田松陰・佐久間象山に贈位がなされたことを拡大の端緒とする2727前掲註4の諸論稿。。この後、1891(明治24)年4月には、梅田雲浜・橋本左内ら安政の大獄連座者に加え、坂本龍馬や高杉晋作など、著名な志士ら計29名に対して贈位がなされる。加えて同年12月には、同様に156名への贈位が実施されたが、この時、僧侶としては初めて契沖・月性・月照・信海(月照の実弟)の4名が贈位を受けている。このうち、月性以下の3名は、いずれも幕末維新期に活動し、代表的な勤王僧として認知されていく僧侶達である。以下の史料では、4名の贈位に関する決裁文書のうち、4名共通の贈位理由及び月性の贈位理由となる事蹟の認定部分を示す。

【史料4】2828国立公文書館所蔵『公文類聚』[請求番号]類00583100[件名番号]026。
 (前略)勤王殉国の士に贈位の光栄を与えらるるに付ては、契沖以下四人の僧侶に於ても其功労を録せられ、相当の御褒賞有之度、而るに今日においては僧位僧官廃止せられ、本願寺の如き已に普通の位階に叙せらるるの制度なるを以て契沖等に於ても他の勤王殉国の士と同様に普通の位階を贈られ然るべし。依て擬議すること左之如し。

(中略)

周防僧
妙円寺 月性

右は慷慨義を好み、身緇徒に在りと雖外患日に迫るを憂い、毎に説法の席に於て尊攘の大義を陳べ、言涙倶に下る。之を聞くもの惰夫と雖も奮興せざるは莫し、又詩を善くし、忠憤の気筆墨の間に溢れ、之を吟ずるもの覚えず。腕を扼して起つ、長防二州の士民勤王の忠気を旺んにせしは、月性風励の力多きに居る。安政年間京都に至り、梁川新十郎、梅田源次郎、頼三樹三郎の徒と切に時事を論ず。而て紀州に至り家老に謁して紀淡両国間海防の必要を説く。戊午の年に至て本願寺月性を徴して之を用いんとす。俄に疾に嬰て死す。当時の人称して海防僧と云う。

史料4によると、まず「勤王殉国の士」に対する政府の贈位政策において、相当の功労がある僧侶4名についても褒賞を与えるべきであるという。そして僧侶については国家による僧位・僧官の叙任制度が廃止されているため、本願寺大谷家が華族に列せられ爵位を叙任したことを引き合いに、他の志士と同じく世俗の位階を以て褒賞とすること、という僧侶への贈位に関する基本的な方針が確認されている。つまりこの時点では勤王の功労があった僧侶への褒賞のあり方、端的にいえば国家による勤王僧認定の方針が定まっていなかったことになる。この意味において、4名への贈位は僧侶の勤王に対する褒賞の先例となり、4名は贈位をきっかけとしてオフィシャルな「勤王僧」の先駆けになったといえる。

次に後段の月性の事蹟に関する部分について考察する。書面には、月性の功績として現在まで語り継がれている基本的な要素(①僧侶の身でありながら勤王の志を持ち、②諸国を遊歴して著名な儒者と交わり、③尊王・海防を説き、④本願寺に登用された)が網羅されており、この時点でその人物評価がほぼ固まっていたことが読み取れる。一方で、上記①に関連する記述など、前出の新聞記事や令知会雑誌の文章をトレースしたような書きぶりも散見される。恐らく政府の長州閥に近い大洲や島地ら防長出身の真宗僧の活動が、贈位のプロセスにも影響を与えており、顕彰事業の報道とも密接に関係があったと思われるが、この点の詳細は今後の課題としたい。いずれにせよ、月性らへの贈位が、勤王僧像の形成の先駆けであり、本願寺派教団や郷里である周防遠崎の地域社会はもとより、さらには今後追従する各地の勤王僧顕彰運動に対しても、与えた影響は大きかった2929前掲註12拙稿2019aでは、福井の勤王僧道雅の贈位請願運動を考察したが、贈位請願に際し、月性、月照とともに「勤王僧三傑」であるとする主張が見られた。

このエントリーをはてなブックマークに追加