第17回「涙骨賞」受賞論文 本賞
近代フランスにおける仏教受容の一様相
― 神智学、アレクサンドラ・ダヴィッド=ネール、ロブサン・ランパ
上野庸平氏
註
- Jacques Brosse, Alexandra David-Neel (Paris :Albin Michel,1991), 288..
- Lopez, Prisoners of Shangri-la,104-111.
- Bouthillette, op.cit.,117-119,131.
- 時代はやや遡るが、冒頭に引用した「Adresse au Dalai Lama/ダライ・ラマへの上奏文」を参照。
- ルノワール、前掲書、6頁。しかしながら、ランパ自身が神智学を標榜したこともなければ、彼の著書の読者がそのまま神智学の信奉者であったということもない。後述するが、彼の読者で神智学についての知識のある者はおそらく5%に満たなかった。
- 大田俊寛『現代オカルトの根源:霊性進化論の光と闇』ちくま新書、2013年、第1章。
- 覚者(マハトマ)はブラヴァツキー夫人に書簡を物質化して寄越しているとされ、これは神智学協会では「マハトマ書簡」と呼ばれた。
- Alfred P. Sinnett, Esoteric Buddhism (London: Trübner & Co.,1883), 9.
- Ibid., 155.
- Alain Daniélou, Histoire de l’Inde (Paris: Fayard, 1973), 338-9.
- 杉本良夫「特集:マダム・ブラヴァツキーのチベット:序論」『国立民族学博物館研究報告』40巻2号、2015年、202頁。
- ルノワール、前掲書、6頁。
- 吉永進一「似て非なる他者―近代仏教史における神智学」末木文美士ほか編『仏陀の変貌』法蔵館、2014年、119頁。
- Obadia, op.cit., 63-66.
- 注21の諸論文に詳しいほか、トマス・ツイードは「人々は秘教的仏教や西洋仏教を神智学と同義語のように扱っていたのである」としている。ツイード「秘教主義者、合理主義者、ロマン主義者」島津恵正訳、末木ほか編『ブッダの変貌』183頁。
- Shinsho Hanayama, Bibliography on Buddhism (Tokyo: Hokuseido Press, 1961), Foreword.
- ブラヴァツキー夫人が神智学の教義を解説した『ヴェールをとったイシス』に続く第二著作。宇宙の発生・歴史から人類の起源・進化の過程等を『ヅャーンの書(Book of Dzyan)』という超古代文献の注釈という形で記述している。
- Marie-José Delalande, “Le mouvement théosophique en France 1876-1921,” (Thèse, Faculté des Lettres, Langues et Sciences Humaines de l’Université du Maine, 2007), 6,143.
- Jean Chalon, Le Lumineux destin d’Alexandra David-Néel (Paris: Perrin, 1985), 52.
- Delalande, op.cit., 470.
- 『チベット魔法の書』[246頁]には次のような逸話が掲載される。ある日、ダヴィッド=ネールがテレパシーを行うことができるというチベットのラマ僧に、ブラヴァツキー夫人が行っていたマハトマ書簡の手法の真偽を嘲笑気味に質問すると、ラマ僧は「それがインドを征服した国民がやることなのか?」とあきれたように返答したという。
- Marcel Granet, critique de Mystique et magiciens du Tibet par Alexandra David-Néel, La Quinzaine critique des livres & des revues 1, no.5 (janvier 1930): 313.
- Granet, critique de Initiations Lamaïques, 313.
- Claire Charles-Géniaux, “Chez Alexandra David-Néel,” La Femme de France, 20 novembre 1932, 20.
- Edwin John Dingle: 1881~ 1972。イギリス出身のジャーナリスト、思想家。20世紀初頭から20年以上を中国やチベット、インドで過ごした。チベット滞在中はチベットの僧院で修業したと主張しており、1920年代にアメリカに移住してチベット滞在中にラマ僧から学んだという教えを生かしたメンタルフィジック研究所(Institute of Mentalphysics)をカリフォルニアに設立し、人々に瞑想や呼吸法を教えた。
- Lopez, op.cit.,103.
- ブハラティは「ロブサン・ランパは神智学の書籍を隈なく、そうでなければ概説本などを読んでいたことは間違いない。彼の全ての書籍はブラヴァツキーの思想の匂いが充満している」とする。もっともランパ本人は「ブラヴァツキーの著作もダヴィッド=ネールの著作も一切読んだことはない」と言明している。Bharati, op.cit.; Lobsang RAMPA, Candlelight (2016), 118(ウェブサイト(Tuesday Lobsang Rampa(https://www.lobsangrampa.org/)、2020年11月9日最終閲覧).
- Lopez, op.cit.,102-103.
- ロブサン・ランパ『第三の目』光文社、1957年、112頁。
- 同上、41頁。
- H. P. ブラヴァツキー『シークレット・ドクトリン』田中美恵子訳、竜王文庫、2017年、356-401頁。
- Bharati, op.cit.
- Peter Bishop, The Myth of Shangri-La: Tibet, Travel Writing and the Western Creation of Sacred Landscape (Berkeley: University of California Press, 1989), 234.
- Lobsang Rampa, The Rampa Story (London: Souvenir Press, 1960), 35-39.
- 副題はQuestions and Answers by the Royal Order of Tibet。書名に関わらず、東洋の文化やチベット仏教の教義は関係しない書籍である。
- 大田、前掲書、123-139頁。
- もっとも両者ともに自身の神智学的ルーツを公言してはいないが。
- ちなみに日本では、ランパの『第三の眼』は共同通信記者の今井幸彦の翻訳で総合出版社の光文社から出版されたが、My Visit to Venus(邦題:『チベット上空の円盤』)は日本にアダムスキーを広めた第一人者・久保田八郎の翻訳でUFOコンタクティ団体の「宇宙友好協会(CBA)」から出版されている。なおCBA初期の元会員で竜王会(日本における神智学の最も伝統的な代表団体)会員が筆者に語ったところによれば、「『第三の眼』もアダムスキーもどちらも若いころによく読んだ」とのことである。
- Hanegraaff, op.cit., 515.
- Ibid., 12.
- Frank J. Korom, “The Role of Tibet in the New Age Movement,” in Imagining Tibet, Perceptions, Projections & Fantasies, ed. Thierry Dodin and Heinz Rather(Boston: Wisdom Publications, 2001), 173.
- ルノワール、前掲書、319頁
- 例えば健康法の一環として禅を行ったり、仏教徒ではないにせよ輪廻転生を信じたりなど。
- Etienne and Liogier, op.cit., 156.
- Lenoir, op.cit., 278, 349.
- 満足圭江「現代フランスにおける仏教受容」『東洋哲学研究所紀要』16号、2000年、154頁
- 吉永、前掲論文、121頁。
- Etienne and Liogier, op.cit., 114-119; Lenoir, op.cit., 131.
- David L. McMahan, The making of Buddhist modernism (New York: Oxford University Press, 2008).
- デヴィッド・マクマハン「仏教モダニズム」田中悟訳、末木他編『ブッダの変貌』、387頁。
- MacMahan, op.cit., 42.
- Ibid., 19.
- Ibid., 97-101.