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宗教と文化の専門新聞 創刊1897年
第20回「涙骨賞」を募集
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墨跡つき仏像カレンダー2024 第20回「涙骨賞」を募集

中外日報社は3月30日に第19回涙骨賞選考委員会をオンラインで開き、坂本慎一氏(51)の論文「野崎廣義とその哲学――西田幾多郎がもっとも愛した早世の弟子」と佐々風太氏(26)の論文「『用いる』ことをめぐる柳宗悦の思想――『仏教美学』との関わりに注目して」を奨励賞に選んだ(本賞は該当作なし)。

今回は16編の応募作の中から最終選考に残った5編を、島薗進・東京大名誉教授、末木文美士・国際日本文化研究センター名誉教授、釈徹宗・相愛大学長が審査した。

奨励賞の坂本氏は1971年生まれ。受賞作は、これまでほとんど知られてこなかった西田の早世した弟子・野崎の哲学を対象に、「自覚」や「文法への着眼」を巡る師弟相互の影響を論じている。

同じく佐々氏は1996年生まれ。東京工業大大学院博士後期課程在学中。受賞作は、民藝運動で知られる柳の、晩年における器物の使用によって生まれる「美」への着眼を、宗教思想の深化との関連から検討している。

坂本慎一氏の話
 このたびは伝統ある涙骨賞奨励賞を授与していただき、身に余る光栄に存じます。宗教を取り巻く様々な環境の変化において、私たちがいかに生活し、思索してゆくべきか、大変に難しい問題が多々あると思っております。今後も、この受賞を励みにし、さらなる精進を重ねたいと存じます。ありがとうございました。

佐々風太氏の話
 このたびは奨励賞を頂き、誠に光栄に存じます。選考委員の先生方、日頃ご指導いただいている諸先生方に、心より感謝を申し上げます。論文は、読まれることによって完成する面があると考えております。様々な方より、拙稿へのご批評を賜れますと幸いです。

選考委の選評

国際日本文化研究センター名誉教授 末木文美士氏

坂本慎一氏の論文は、西田幾多郎門下の哲学者で、28歳で早世した野崎廣義を扱っている。野崎について従来ほとんど研究がない。本稿は、その生涯と哲学を概観し、とりわけ絶筆となった論文「懺悔としての哲学」を中心に、智山勧学院での教え子・高神覚昇の文章をも参考にして、野崎の最後に到達した思想を解明している。それは「俺は俺だ」という自覚であり、西田の自覚の哲学と問題を共有し、西田に影響を与えた可能性もある。本論文は西田・野崎・高神という哲学者たちの相互影響を論じ、魅力的である。
 ただ確実な証拠に乏しく、推測が多いので、必ずしも説得力が十分といえない点が残念である。なお、野崎が田辺元の『懺悔道としての哲学』に与えた影響もあり得るのではないか。

東京大名誉教授 島薗進氏

柳宗悦は晩年、「仏教美学」を打ち立てようとした。佐々氏は、その際に「用いられた美」という観点が重要な役割を果たし、柳の宗教思想が一段と深まったのではないかと論じる。工芸品の美は作られたことによるとともに、使用されることによって生じるという観点は、すでに1927年の「工芸の美」に見えている。58年の「疵の美」では、そこに傷や汚れといった瑕疵も美を深めるものだとする視点が加わる。そして美に「人為を超えた」恵みとしての「他力」を見るという『美の法門』へと展開する。このような晩年の柳の宗教思想の深化の解明は佐々氏独自のものであり、奨励賞に値するものと言える。

相愛大学長 釈徹宗氏

今回は選者の評価が分かれた。しかし、奨励賞に選ばれた2論文が上位に挙げられた点は共通していたと言える。
 全般的に、読み物としては面白いが論文としての精度は高くない、といった作品が多かった印象を受けた。

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