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2024宗教文化講座

中外日報社は3月12日、第20回涙骨賞選考委員会をオンラインで開き、秋田光軌氏(39)の論文「『生命の革新』としての限界芸術――クームラズワミとデューイの『ヴィジョン』を手がかりに」を受賞作とすることを決めた。また奨励賞に武井謙悟氏(38)の論文「近代日本における合掌観の変遷」と、山根息吹氏(29)の論文「無心と憐れみの霊性に基づくケアと連帯――宗教知の協働に向けた聖書・教父思想の再解釈」が選ばれた。

今回は32編の応募があり、最終選考に残った6編を島薗進・東京大名誉教授、末木文美士・国際日本文化研究センター名誉教授、釈徹宗・相愛大学長が審査した。

涙骨賞を受賞した秋田氏は1985年生まれ。浄土宗大蓮寺住職、パドマ幼稚園園長補佐、秋田公立美術大大学院複合芸術研究科博士課程在籍。受賞作は、思想家・鶴見俊輔が提唱した「限界芸術」について、鶴見に影響を与えたクームラズワミとデューイの芸術論を参照しつつ、「生命の革新」へのアプローチの一つとして提示。さらには、仏教に基づく「限界仏教」の展開も構想する。

奨励賞の武井氏は1985年生まれ。駒澤大、佛教大、神奈川大で非常勤講師、武蔵野大仏教文化研究所、國學院大日本文化研究所で研究員。受賞作は、近代日本における合掌に関する雑誌・新聞記事を事例として、その意味合いの変遷を検討。近代に形成された合掌観の現代への継承についても言及している。

同じく山根氏は1994年生まれ。東京大大学院総合文化研究科学術研究員。受賞作は、仏教的・東洋的な「無心」の視点から、聖書思想および教父思想における「憐れみの霊性」を再解釈。ケアなどの場での仏教とキリスト教の協働に向けた基盤づくりを試みた。

涙骨賞および奨励賞2本はいずれも要約を紙面に掲載し、全文をホームページ上で閲覧できるようにする。

受賞者には表彰状と賞金、涙骨賞30万円、奨励賞10万円が贈られる。

受賞者の肩書はいずれも応募時のもの。

選評と受賞の言葉

立論への道筋堅固 秋田氏 ― 相愛大学長 釈徹宗氏

思想研究の方法論に沿って、立論への道筋がしっかりしているところを高く評価したい。なにより宗教と芸術をテーマにした魅力的な論文であった。
 ただ、タイトルがうまく内容を表現できていないと思う。また、クームラズワミ、デューイ、鶴見へとつながる展開が弱い。そのため柳田國男、柳宗悦、宮澤賢治を入れることで補強しているのだが、そうなると今度は少し論旨がぼやけてしまう。このあたりは比較思想研究の難しいところである。

考察を実践にも反映 秋田光軌氏の話
 このたびは本賞に選出していただき心より感謝申し上げます。さまざまな出会いや関わりを経て、この論文を書くことができました。今後の仕事や生き方を通じて考察を実践にも反映し、言行一致に少しでも近づけるよう励んでまいります。

合掌観の変遷明確 武井氏 ― 国際日本文化研究センター名誉教授 末木文美士氏

今日でも食前の合掌は広く行われ、子供の教育の場にも用いられる。本論文は、この合掌を近代の「創られた伝統」と見て、その歴史を明らかにしたものである。
 合掌への注目は明治期の仏教者に始まるが、大正期には在家者を含めた通宗派的実践として推進され、関連する雑誌も創刊されてブーム化し、戦争期にはアジア共通の儀礼として推奨されたという。多くの資料を駆使して、近代日本の合掌観の変遷を明確にした点で、大きな成果として評価される。仏教雑誌『大法輪』が合掌推進の先頭に立ったことなど、甚だ興味深い。
 ただ、資料の羅列に終わっているところもあり物足りなさが残った。今後、さらに資料を掘り下げるとともに、その社会的役割や他の仏教国との比較など、研究が深められることが期待される。

能登復興への一助に 武井謙悟氏の話
 このたびは第20回涙骨賞奨励賞を授与していただき誠に光栄に存じます。拙稿提出の翌日、能登半島地震が発生しました。北陸地方の合掌も事例に挙げさせていただいた拙稿が微力ながら復興の一助となれば幸甚です。 合掌

「無心」の再把握へ 山根氏 ― 東京大名誉教授 島薗進氏

本論文は、「他者の悲しみや痛みに虚心に寄り添う」ことのスピリチュアルな局面への理解を、仏教的・東洋的「無心」と聖書と教父の隣人愛についての捉え方をつきあわせることで深めようとしている。
 「憐れみに突き動かされて」と訳されるギリシア語の中動態的用語が聖書に描かれる他者への寄り添いのスピリチュアルな次元をよく表すとともに、人間の脆弱性や依存性を肯定的に位置付けるニュッサのグレゴリオスの救貧・看護の活動の隣人愛の理念にも妥当する。また、こうした初期キリスト教の隣人愛の理解は、宮澤賢治にも見られるような「小さくされた」人々への連帯という社会的次元を際立たせることで、仏教的・東洋的「無心」の再把握に役立つとする。
 現代のアクチュアルな問題意識に基づき、初期キリスト教思想の再解釈を軸に東西の宗教思想の捉え返しを展望する野心的な論考である。

可能性模索した試論 山根息吹氏の話
 ケアをめぐる現代社会の喫緊の課題に対して、宗教知が諸宗教の枠を超えて相補い合いながら協働する可能性を模索した試論を、奨励賞にご選出いただきまして大変光栄です。このような場を与えてくださった皆様に、心から感謝しております。

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