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2024宗教文化講座

面壁坐禅 ― 坐禅の変遷を考える(2/2ページ)

花園大国際禅学研究所客員研究員 舘隆志氏

2017年6月16日

栄西も中国で面壁

しかしながら、よくよく調べてみると、道元が参じた栄西(1141~1215)も天童山などの中国にあって面壁坐禅をしていたことを自ら記していた。さらに同じ時代に活躍した蘭渓道隆(1213~78)や円爾(1202~80)、そして二人の中国における師である無準師範(1177~1249)、南北朝期の夢窓疎石(1275~1351)までことごとく面壁坐禅をしていた記録が残っていた。

鎌倉末期、臨済宗の鉄庵道生(1262~1331)は、入院法語で修行僧を前にして「面壁の宗猷を振るい起こす」(『鉄庵和尚語録』「乾明山万寿寺語録」)と述べている。面壁は達磨、宗猷は宗旨のことを指し、達磨の宗旨を盛んにするほどの意味であるが、「面壁の宗猷」との言葉は、面壁坐禅が日常の修行であったことを物語っている。

道元と瑩山以外はすべて臨済宗の禅僧である。すなわち、鎌倉時代においては、中国でも日本でも、曹洞宗も臨済宗も、集団の修行生活で面壁坐禅を実践していたのである。

坐禅という修行は、なにも禅宗に限ったものではない。釈尊が坐禅で悟った以上、基本的にどの宗派でも行われていたものである。鑑真や最澄の肖像が坐禅姿で残されている以上、東大寺戒壇院、比叡山戒壇院を受戒の基本としていた日本仏教僧侶は、本来は等しく坐禅していたはずであった。

「面壁」は文献上「達磨面壁」に遡るものであり、律宗や天台宗などをはじめとした諸宗の史料に集団修行での「面壁」の言葉は見いだせない。面壁坐禅を集団の修行生活として行っていたのは、中世の日本では曹洞宗と臨済宗のみだった。すなわち、面壁坐禅は中世における禅宗の特徴の一つだったのである。

黄檗宗から影響か

江戸時代の坐禅

それでは、この違いは何時から生じたものであろうか。江戸時代前期に活躍した臨済宗妙心寺の僧侶で、無著道忠(1653~1744)という禅僧がいる。学識に極めて優れたため「学聖」と呼ばれ、後に妙心寺住持にもなったが、この人によって興味深い記録が残されている。

無著道忠は、江戸時代に中国からやってきた禅僧たちが、面壁坐禅をしていなかったことを記録しており、坐禅は初祖達磨にならって面壁すべき旨を述べている。中国の禅僧とは言うまでもなく黄檗宗の僧侶であって、黄檗宗の僧侶たちが自分たちとは異なり面壁坐禅をしていないことを記録しているのである。

実際、盤珪永琢(1622~93)の法を嗣いだ潜嶽祖龍(1631~86)の伝記には「面壁兀坐」していたことが記されている。

本年は白隠慧鶴(1686~1768)の二五〇年遠忌に当たる。その白隠の在世中は、妙心寺をはじめとして、臨済宗でも面壁坐禅が行われていたのである。

宋朝禅を守っていた日本では、面壁坐禅のままであったが、中国ではいつのまにか、壁を向かない坐禅が行われていたようであり、それが江戸時代に日本に輸入されたとみられる。

したがって、日本において江戸前期までは曹洞宗、臨済宗ともに面壁坐禅をしていたことになる。そして、江戸時代までは面壁坐禅は禅宗の特色の一つでもあったようだ。その後、しばらくして臨済宗も対面坐禅に代わっていくが、これは江戸時代に新たに伝わった黄檗宗の影響をも受けてのことであった。

鎌倉時代に中国から伝来した禅宗の坐禅は、日本で行じられ受け継がれてきた。そして、江戸時代に新たに中国から伝来した坐禅の影響を受けつつ、現在に継承され、伝灯が受け継がれているのである。

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