ブッダのお弟子さん にっぽん哀楽遊行 タイ発――奈良や京都へ〈影〉ふたつ…笹倉明著
タイ・チェンマイの古寺にて67歳で出家した直木賞作家が、その1年後の2017年春と18年秋の2回、寺の副住職と連れ立って日本を旅した記録が収められている。
「失敗や間違いの多かった人生に、その終盤に、生半可ではない決意が私には必要だった」とあるように、著者は学生時代に音楽や演劇、ボウリングのプロを目指したり、小説家を志したりしたが、なかなかペンでは食べていけず苦労した。直木賞を受賞するも妻と子ども3人とは別居し、別の女性との間に息子が生まれる。その息子を溺愛してゴルフを習わせ豪州留学までさせるが、プロ資格を競うトーナメントで息子は「わざと失敗」して道をそれる。一念発起した著者は息子に自省を促すべく、シニアのプロに挑戦しようとゴルフに打ち込むが、息子が著者のクレジットカードを使って預金のほぼ全額を引き出してしまう事件が起きる。「無一文」となり、これが出家の決心につながった。
アーチャーラ・コーチャラ(僧の行儀作法と戒に沿った正しい行動)を守るテーラワーダ僧として生きる著者は、旅の最後に、出家前まで暮らしたバンコクに立ち寄って托鉢をする。数年ぶりに会う知り合いたちが目を潤ませ祝福する様子に感銘を受け、過去の不善を善で埋めて生きていく決意を新たにする。
定価1980円、佼成出版社(電話03・5385・2323)刊。