アジア仏教美術論集 東アジアⅦ アジアの中の日本…宮治昭・肥田路美・板倉聖哲責任編集
アジア仏教美術研究の現在地を示した全12巻のシリーズが完結した。
最終巻である本書は「アジアの中の日本」をテーマに彫刻、絵画、工芸など仏教美術の各分野を地域、時代で分けて20人の論考を収録した。仏教が伝来して間もない頃の日韓交流や中世の日中文化交流、近代の仏画復興を取り上げる。仏教美術は教えを視覚的に表し、言語も習俗も異なる各地域の人々の信仰心を高揚させ、アジアに伝播する推進力になっていた。
論考のほか、表紙と裏表紙の見返し部分に地域別の仏教美術関連年表を掲載する。釈迦入滅以降、紀元前500年から現代までの歴史的事象も並置して確認できる。16世紀には、南アジアではポルトガルやオランダの進出で仏教が衰微し、中央アジアではトルファンがイスラム化している。明の第12代皇帝、嘉靖帝が廃仏崇道策を取るなど、他宗教とのせめぎ合いの中で仏教の盛衰があったことが見て取れる。
本書の責任編集は、シリーズ全体の監修を務めた宮治昭・名古屋大名誉教授、肥田路美・早稲田大文学学術院教授、板倉聖哲・東京大東洋文化研究所教授の3氏。本シリーズは2019年に国際的な出版文化賞「パジュ・アジア出版賞」の企画賞を受賞した。
定価6820円、中央公論美術出版(電話03・5577・4797)刊。