基本史料でよむ 日本仏教全史…大角修編著
古代から現代までの仏教史料を、各時代の背景と共に解説する。経典に偏らず和歌や漢詩、演劇などの文芸作品を幅広く取り上げ、人々の生活文化に浸透する仏教の歴史をひもとく。全6章から成り、日本仏教史をたどる上で基本となるもの、世相をよく表しているものを抄録しつつ、原文を読むことに主眼を置く。現代語訳や語注、コラムも各章に収録。2009年刊行の『日本仏教史入門―基礎史料で読む』を改訂し「第6章 近現代」を新たに書き下ろした。
第6章では、近現代の仏教に通底する問題点を取り上げる。清沢満之をはじめとする僧侶らにより教義や宗学の刷新が図られた一方で、葬儀や読経などの実践が否定された点を指摘。戦後の僧侶らも先祖供養に意義を見いだせず「生きるための教え」を講じるようになる中、供養による功徳を強調する仏教系新宗教が急成長したと考察する。
伝統宗派に関しては「仏教各宗が近代化をはかりつつ、天皇制国家への順応、さらには国体奉賛の方向に動いていった」と戦争協力の問題に触れる。一方で戦没者追悼法要など戦死者を偲び安寧を願う儀礼の実践こそが「千年をこす仏教の歴史の中でつちかわれた文化力」だとし、平和主義に転じた現代の仏教に求められる重要な役割だと説く。
定価2750円、KADOKAWA(電話0570・002・301)刊。