全国名所図会めぐり 航空写真と読み解く歴史絵巻…渋谷申博著
江戸期に発刊された「名所図会」を頼りに、現在まで続く神社仏閣と近隣の風景を紹介する。東京と横浜を中心に、京都、奈良、河内、伊勢に注目した。「名所図会」とは現在でいう「観光ガイド」に当たるもの。挿絵に残された信仰の風景に着目し、木版刷りの挿絵と現在の航空写真とを同ページに複数配置することで比較して楽しめるようになっている。
本書によると、上野の寛永寺はかつて30万5千坪の広さを誇り、上野山全体が境内地だった。不忍池は琵琶湖に見立てられていた。そのほか、現在の京都国立博物館(京都市東山区)の裏手には、豊臣秀頼が建立した方広寺の大仏殿があった。1798(寛政10)年の落雷で焼失する以前の挿絵に東大寺の大仏殿と似た様式の建物がそびえる。
コラム「『名所図会』に見る都の祭」では「太秦牛祭」を紹介している。摩多羅神が赤鬼青鬼に扮した四天王を従えて、境内を練ってから奇妙な祭文を読み上げるものだという。元は太秦広隆寺(同市右京区)の境内にあった大酒神社の祭りで、明治維新前後に中絶したこの祭りを再興したのは、近隣の車折神社の宮司を務めた富岡鉄斎であったという。小さなうんちくが各項にあり、読者を飽きさせない。
定価1980円、G.B.(電話03・3221・8013)刊。