法華仏教研究 第37号…法華仏教研究会編
2009年の創刊から15年、日蓮聖人門下が宗派を超えて論考を寄せている。今号には村上東俊氏「日蓮聖人の後期花押に関する考察」、川﨑弘志氏「松尾剛次稿『日蓮伝再考』への反論」、佐藤弘夫氏「顕現する仏たち―生身と中世仏教」、菊地大樹氏「偽書と伝授―語り得ぬものを語ること」などを収録する。
巻頭の村上氏の論文は、第33号掲載「日蓮聖人の前期花押の特徴と母字に関する考察」に続くもの。日蓮聖人の花押については昭和初期、山川智應が梵字を母字とするとの解釈を提示して以降定説となってきたが、村上氏が聖人の名の一字「蓮」を基にしたものだと論じるなど、近年議論が活発になっている。
村上氏は遺文の文字一つ一つを比較検討し、当時の時代背景も視野に、聖人晩年の花押の変化に迫る。緻密な検証の末、母字が蓮の草書体から楷書体に変わったと結論。その理由として重篤な「はらのけ(下痢)」からの回復を挙げ、「法華経の行者としての自覚の深化や法華経至上主義がより強固になることで、それが後期花押へ変化する契機になった」との考えを示す。またこの頃流行した疫病が『立正安国論』執筆時の疫病に匹敵するほどひどいものだったことも要因の一つと指摘する。
頒布価格2500円、法華仏教研究会(メール)刊。