はじめての人におくる般若心経…横田南嶺著
臨済宗円覚寺派の横田南嶺管長が、現代の若い人たちの苦しみに寄り添い、閉塞感を打破する般若の智慧、空の世界を説く。
これまで般若心経の解説をその難解さから断ってきた著者の気持ちは、ある言葉をきっかけに一変した。子どもの人生が、生まれた家庭環境など「運」に左右されることを指す「親ガチャ」。自分ではどうすることもできない苦しみを諦めたような言葉が流行する社会に「空の心を説いてみよう」と決意した。総長を務める花園大で2022年に学生を相手に行った全6回の講義をまとめた。
「空」の意味は「変わるものである、変わらないことはないのだ」と説明する。本当の自分というものも存在しない。生きづらさを感じていても、SNSで誹謗中傷を受けていても、否定されるべき「自分」なんてものは存在しないと説く空の世界は、苦しい気持ちをふっと軽くしてくれる。仏教史や経典の教え、僧侶の言葉だけでなく身近な話題など多様な例えを用いて教えを説く。
著者は講義の終わり、無心に般若心経を唱える、写経をする、坐禅に取り組むことを提案する。空を理解するには「頭をからっぽにして一つのことに打ち込むことが一番の近道」。若者に向けた禅僧のメッセージがつづられている。
定価2200円、春秋社(電話03・3255・9611)刊。