求道の越境者・河口慧海 チベット潜入ルートを探る三十年の旅…根深誠著
今日、人類の目は地球外の無限空間である宇宙に向いているが、15世紀半ばから始まった大航海時代の後、探検家たちが未知なる秘境を目指して世界を歩いた地球大発見の時代が続いた。ブッダの教えを求めて求道の旅に出た法顕や玄奘三蔵と並んで知られる日本人僧の河口慧海も、その歴史に名を刻んでいる。本書は、1900年にネパールからヒマラヤを越えて単身チベットを行脚した慧海のチベット潜入経路を実際に探索した、仏教世界を巡る長い旅の記録である。
明治大山岳部OBの著者は、ヒマラヤの未踏峰6座に初登頂を果たすなど、国内外の山岳を愛する登山家である。「求道の越境者・慧海」の偉業に魅せられ、いつか慧海のチベット潜入経路を自分の足で踏査したいと夢見ていた。願いを抱いてヒマラヤに足を踏み入れてから半世紀、チベットの現地調査は30年以上に及ぶ。慧海の潜入経路を確かめながら土地の人々と交流し、日常の暮らしや風俗を書き留めた内容は、慧海の時代からタイムスリップした現代の『チベット旅行記』と言うべき豊富さと面白さに満ちている。
ヒマラヤ一円を踏査した試みを、著者は「パイオニア・ワーク」と自ら呼んでいる。それは慧海の「求道」の誓願に導かれての旅であったと言ってもよい。
定価3300円、中央公論新社(電話03・5299・1730)刊。