そのとき門はひらかれた 法然上人ものがたり…中川学絵
浄土宗西山禅林寺派が立教開宗850年の記念事業の一環として発刊した絵本で、宗祖法然上人が開顕した専修念仏の法門の要諦と上人の生涯を一般にも分かりやすく伝える。
作画は近年伝統仏教界でも人気が高まっているイラストレーターの中川学氏(京都市中京区・禅林寺派瑞泉寺住職)が担当。豊かな色彩や登場人物などの躍動感の緩急・動静の妙が抜群で、そこに通底する穏やかな画風が読者の心に安らぎをもたらす。従来の伝記・教化書籍にはないインパクト十分の仕上がりになっており、他宗派でも話題にする僧侶が見られる。
他方、法然上人の出家の因縁や上人が『観経疏』から見いだした「開宗の文」について、通説とは異なる説を採用している点にも画期がある。これは立教開宗850年を機とした禅林寺派内の研究に基づく知見で、最古期の法然伝である『法然上人伝記』(醍醐本)の説に基づく。
通説の「開宗の文」は「一心専念の文」だが、本書では「上来雖説定散両門之益望仏本願意在衆生一向専称弥陀仏名」の一文を取り上げている=写真。個性的な作画の妙に加えて、ある種の問題提起も含んだ一冊。浄土門各派に反響が広がりそうだ。
定価2200円、アリス館(電話03・5976・7011)刊。