日本中世の地方社会と仏教寺院…黄霄龍著
著者は本書の課題について「日本中世の地方社会は、どの側面で国家的秩序に規定されるか、あるいは否かを、一つの地域に絞って解明することである。規定される面に関しては、地方側はどのように受け止めたか。規定されない面に関しては、その自律性はどのような特徴があるのか」と表明する。こうした課題を踏まえ、室町期の北陸地域(越前・若狭・加賀)を対象に、仏教寺院を通して地方社会の特質を解明しようと試みている。
「真宗王国」としてではなく、白山信仰や時衆(時宗)、真言宗など多様な信仰や宗派の寺院を取り上げ、その動向を検討。その上で地方寺院を通して、朝廷や幕府、本寺など中央権力につながる様々なレベルの支配が地方社会に与えた影響を考察していく。
室町将軍家の祈願寺院認定が地方寺院の宗教機能を充実させるとともに本寺による認定の斡旋が本末関係強化の契機となったこと、異なる宗派であっても地方寺院に現実的な利益をもたらす政治的権威として延暦寺が影響力を持っていたこと、東寺の修造勧進など中央の寺院が主導した勧進活動が地方の宗教社会構造に影響を与えたこと、またそうした影響力を巡って寺院間で競合や競争があったことなどを指摘する。中世の国家的秩序と地方社会の構造に新たな視座を提示する一冊。
定価9350円、吉川弘文館(電話03・3813・9151)刊。