キルケゴールのキリスト論 同時代のヘーゲル主義者との関係で…鹿住輝之著
デンマークの哲学者・キルケゴールの思想や体系批判は長年、ヘーゲルと結び付けられて解釈されてきた。しかし近年の研究で、キルケゴールの批判がJ・L・ハイベアやH・L・マーテンセンといった同時代のデンマークのヘーゲル主義者らに向けたものだったこと、同時にキルケゴールが彼らと同じ問題意識を共有していたことが明らかになった。
当時デンマーク社会は敬虔主義や啓蒙主義の台頭、自由主義憲法を求める動きなどによって宗教改革以来の国家教会制度が大きく揺らぎ、国民に信教の自由が認められる危機的変化を迎えた。ハイベアとマーテンセン、キルケゴールは既存の絶対王政を攻撃する自由主義者らに保守派の立場から応答する著作を残したが、前者2人が社会の危機に対する解決策としてヘーゲル哲学やその影響を受けた神学を用いたのに対し、キルケゴールはその解決策がさらなる混乱を招くと考えた。
著者はその相違の核心を探るべく、三者が展開したキリスト論を解き明かす。伝統に再度価値を与え復興しようとするハイベアらに対し、キルケゴールはキリストを社会集団の規範と異なる領域に置く。本書はキリスト教的価値観の崩壊に対する三つの異なる考えを示し、キルケゴールのキリスト論と彼の問題意識を深く、明瞭に理解しようと試みる。
定価4950円、新教出版社(電話03・3260・6148)刊。