ルポ 宗教と子ども 見過ごされてきた児童虐待 毎日新聞取材班編
安倍元首相銃撃事件を受け、宗教2世たちの苦難を丁寧に聞き取ると同時に、国や自治体、医療機関が宗教2世の問題にどう対応してきたかを検証するルポ。多くの宗教2世が心身両面に深い傷を負いながらも救いの手が差し伸べられず、社会の中の「見えない存在」になっていた様子を浮き彫りにしている。
なぜ、宗教を背景にした児童虐待が社会の中で見過ごされてきたのか。この点を考える上で、同書に掲載されている児童相談所を設置する自治体へのアンケート結果が興味深い。2017~22年度に宗教的虐待に関する通告・相談を「受けたことがある」と回答したのは29自治体で78件もあった。
一方で、憲法で保障された「信教の自由」に関連するため、児童相談所が介入をためらう様子も明らかにされている。こうした問題を踏まえ、同書は厚生労働省が22年に宗教的虐待の対応指針を初めてまとめ、全国の自治体に通知したことを評価する。
同書でも紹介されている通り、これまでにもエホバの証人の信者が自らの子への輸血を拒否する問題やオウム真理教の施設内で親と引き離されて暮らす子どもの存在など、社会が宗教2世の問題に気付いて対応するチャンスはあったのではないか。もっと社会は子どもの人権に真剣に向き合うべきだろう。
定価2200円、明石書店(電話03・5818・1172)刊。