『般若心経幽賛』を読む 唯識の修行…吉村誠著
唐代に法相宗を開いた基(慈恩大師)による般若心経(心経)の注釈書『般若心経幽賛』(『幽賛』)の初めての解説書。心経を玄奘がもたらした新来の唯識説と解釈すべきだと主張する基が、瑜伽行唯識派の立場から『般若経』を解釈し、中観派に対する優位性を示そうとした『幽賛』の神髄を明らかにする。
心経は日本で最も多くの人に親しまれている経典の一つだが、心経について語られる際に『幽賛』が引用されることはほとんどない。筆者は、中観派の二諦説を批判し、瑜伽行派の三性説や非有非空中道の立場から心経を解釈し、修行の重要性を強調した『幽賛』を読み解くことで、近年、注目されている「唯識の修行論」の全体像や中観派との相違点を明確にしている。
『幽賛』で基は「空」や「行」の解釈について、勝空者(中観派)と如応者(瑜伽行派)の解釈を併記することで、唯識思想の中観思想に対する優位性を示そうとしている。修行不要論や虚無主義に陥りかねない中観派の思想を批判し、観自在菩薩に倣い六波羅蜜多を実践し、菩薩の道を歩むことを促す記述からは、五姓各別説で一切皆成を否定した僧という従来の印象とは異なる「衆生を励まし菩薩の自覚を持たせようとする」基の姿が見える。
定価2970円、春秋社(電話03・3255・9611)刊。