中国道教像研究…齋藤龍一著
「儒仏道」と呼ばれる中国三教のうち、インド、中国、朝鮮半島を経由して日本に渡来した仏教と共に、孔子を始祖とする儒教は道徳・倫理の道あるいは国家統治の思想として我が国に積極的に受容され、その影響は経世済民の思想や帝王学として深く浸透している。一方、不老長寿や神仙思想を希求する道教については一般になじみは薄いが、思想の根本をなす老子の「道」や宇宙観は、仏教との相関関係が指摘されている。
本書は道教像が出現した中国南北朝時代から、道教が国家的な庇護のもとで隆盛した唐時代に至る各時代の道教像の様式と造像の背景を、多くの図版を示しながら美術史研究の立場から考察した論文である。
「仏像をはじめとする仏教美術については広範かつ詳細な研究の積み重ねがあるのに対して、道教像についてはかなり状況が異なっている」と著者は言う。その理由は、道教像の現存数が圧倒的に少ないこと。また多くが20世紀初頭に中国国外に出たため、所在地や伝来に関する情報が失われているからだという。
道教像には中央様式のような存在が見当たらない。このことから著者は、道教像の特質を「中心なき地方性により発展・展開していった」と位置付けている。
定価1万1千円、法藏館(電話075・343・5656)刊。