近代教育学と浄土真宗 人間・教育・宗教の根本問題を問う浄土真宗的教育人間学…川村覚昭著
人間の本性を「善」と考えてきた西洋近代の個人主義に立脚する教育観に対し、人間を「煩悩具足」と捉えた親鸞の人間観に基づく「浄土真宗的教育人間学」の構築を提起する。個人主義的な人間観に依拠し、そこから自由意識の拡大を戦後一貫して追求してきた教育には「隠れた根本問題がある」との認識が根底にある。
近代教育学の論理構成を批判的に考察し、それを浄土真宗の視点から「現代における教育人間学」として脱構築する。「人間学」を前面に打ち出すのは、教育とは「人間らしい人間」を形成する人間的な行為であり、教育を論じるためには、基本的に人間理解を前提にしなければならないからである。
教育は、人として生きることについて考え「生きる力」を実現するために何をなすべきかを考えることにほかならない。ところが教育政策では、青少年の関わる重大事犯を背景に道徳教育の教科化が進められた。「人間らしい人間」の根本を問うことなく、近代的思惟を思考原理とする教育方針が推し進められたことには危うさがある。
著者は、仏法の授受に見られる「師資相承」に教育人間学の原則を見いだし、現代教育の喫緊の課題は、戦後の教育が無視してきた仏教的な精神面の回復だと論じている。
定価7700円、法藏館(電話075・343・5656)刊。