仏教儀礼の音曲とことば 中世の〈声〉を聴く…柴佳世乃著
古くから仏教儀礼の根幹をなす声の重要性には絶えず注意が払われてきた。中世に至ると、様々な芸能が口伝と師資相承を伴って芸道として立ち現れた。とりわけ法華経の読誦は、正確な字音の読みに加えて音曲面が重視され、秘事口伝が生じて徐々に芸道として形を整えた。これを「読経道」という。
後白河院、後鳥羽院、後嵯峨院の院政期に形作られた読経道は、書写山(書寫山)圓教寺で盛んとなり、口伝や譜本が残された。
本書は仏教儀礼の歴史的展開を、ことばと音曲の両面から俯瞰する。読経音曲とはどのようなもので、実際にどのような声が響いていたのか。今日では不明な点が多いが、可能な限りその実態に迫った。
例えば後白河院代に作られ、如意輪観音の功徳をうたう澄憲の「如意輪講式」は、ことばに音曲を付して聴衆を教化する唱導において、重要な役割を担った。同講式は澄憲が書写山に参籠して作成され、七段と長大な構成ながら「全体が美麗な秀句・対句で貫かれている。経典類を自在に引用して隙が無い」とする。
同講式の翻刻・訓読を巻末に付し、織り込まれた経文の分析や復元実唱に取り組んだ。声の威力や功徳によって、仏教儀礼が洗練され芸道化した経緯を明らかにしている。
定価9900円、法藏館(電話075・343・0458)刊。