苦しくて切ないすべての人たちへ 生きているだけで大仕事-。…南直哉著
日本三大霊場の一つに数えられる恐山菩提寺の院代を務める著者が、恐山を訪れる様々な事情を抱えた人々との関わりや、20年に及ぶ曹洞宗大本山永平寺での修行生活の中で経験した出来事を軽妙な筆致で描きながら、現代人が抱える苦しみや切なさの正体に迫る。
本書のもとになった連載のタイトル「お坊さんらしく、ない。」が示す通り、終始、世間一般の想像する「お坊さんのお説教」とは異なる一見ネガティブな「著者の本音」でつづられている。しかし、一冊を通して読み取れるのは、生老病死という誰もが抱える苦しみに優しく寄り添い、仏教の本質を説き、読者の心の重荷を軽くしようとする仏教者としての矜持だ。
第1章「恐山夜話」の「後ろ向き人生訓」では、問答無用でこの世に投げ出され、不本意なまま現実を生きる人々に「生きているだけで大仕事」「重荷を投げ出さず、今まで生きてきた事実だけで大したもの」と呼び掛ける。人生は「無駄な時間」が土台にあるということを受け入れ、自分自身で「生きるテーマ」を定め、大切にする人や物事を決める「適当な生き方」を提示する。
「カルト」や「宗教2世」、「親ガチャ」という言葉の流行など近年の社会問題にも鋭く切り込み仏教的な視点から持論を展開する。
定価902円、新潮社(電話03・3266・5430)刊。