日本仏教再入門…末木文美士編著
仏教についての概説書、入門書、思想書や歴史書、物知り事典などは数限りないほど多い。その理由は釈尊以来の歴史の長さ、流布した地域の広範さ、受容と変遷の多様さによる。仏教の本筋に根本的な違いはなくても、視点を変えることで、仏教は様々な相貌を見せる。だから、仏教・仏教思想はいつの時代も人間の生と死に新しい意味を投げ掛け、生きるための指針となる。
本書は仏教研究の進展を踏まえ、異なる観点から日本仏教の重層的な性格を明らかにしようとした新しい試みの入門書である。そのため倫理学を専門とする学者、社会学からの視点で仏教を探究してきた学者、仏教思想史的な研究を深めてきた学者の3人による共同執筆の形を取っており、仏教についての固定化された概念から解放された形で、より根源的なテーマとして、また現代的な思考対象として仏教を考えることができる。
従来の仏教入門書と異なるのは、例えば「仏教伝来と聖徳太子」の章では、頼住光子氏が「超越的なるもの」との関係という視点から仏教受容を考察している。また大谷栄一氏は、現代の仏教の在り方を直接的に規定している「近代仏教」を「廃仏毀釈からの出発」と位置付けるなど、現在地から日本仏教の地層を照射し、新鮮な感興を呼び起こす。
定価1496円、講談社(電話03・5395・5817)刊。