九州真宗の社会と文化…中川正法・小林知美・岡村喜史編
浄土真宗本願寺派の宗門関係校・筑紫女学園大(福岡県太宰府市)の真宗文化史研究会が学内外の研究機関や研究者の協力を得ながら取り組んできた調査や研究、史料翻刻などの成果を3部構成でまとめた。
第1部では主に北部九州の真宗史を考察した論考を収め、15世紀にさかのぼる「九州への真宗の伝播と展開」から近代の「筑前共愛会憲法草案を起草した大塩操(旧名・和田玄遵)について」など4論文を取り上げている。
第2部では筑前国の触頭寺院・萬行寺(本願寺派、福岡市博多区)に注目。同寺の「触頭諸役目留帳」を通した福岡藩の寺院統制の分析のほか、幕末維新期に住職を務めた七里恒順を中心とした「排耶と護法」や私塾・龍華教校、福沢諭吉との対談、博多柳町婦人教会の動向を論じた諸論文が興味深い。第3部では萬行寺をはじめとした各種史料の翻刻や活用などが示されている。
真宗文化史研究会は、九州の真宗史研究が他地域と比較して十分ではないとの問題意識から2006年に始まった文化財調査プロジェクトを前身とし、研究成果の集成は14年の『九州真宗の源流と水脈』の刊行以来。これまでの調査・研究をきっかけに福岡市を主体とする市内の寺院資料調査が実施された例もあり、さらなる研究の進展が期待される。
定価7700円、法藏館(電話075・343・0458)刊。