高楠順次郎 世界に挑んだ仏教学者…碧海寿広著
仏教学者、高楠順次郎(1866~1945)の最大の業績は『大正新脩大蔵経』の出版だ。千年以上、東アジアで蓄積された無数の漢訳経典を全100巻に編成して1924~34年に活版印刷で刊行、借金を抱えつつ奮闘した。その功績は2008年に「SAT大蔵経テキストデータベース」としてインターネット空間に生まれ変わり、全世界の仏教研究者の知のプラットフォームになっている。
本書は、原動力となった青年期の留学や教育者としての晩年までを描く評伝だ。
高楠は広島県の浄土真宗の信仰にあつい家庭に生まれた。広島を離れ、京都の龍谷大の前身となる学校で学び、青年期を過ごす。仏教徒として禁酒を推奨する「反省会」の機関誌『反省会雑誌』を1887年に刊行した。この雑誌は現在も、名称を変え『中央公論』として親しまれている。90年から7年間、欧州に留学し英国・オックスフォード大などで学んだ。
壮年期には、関東大震災からの復興を目指し武蔵野女子学院(現武蔵野大)を創設、教育に力を入れた。文化勲章を受章している。
敗戦色濃い1945年6月に死去し、四十九日は8月15日に当たった。正午からの重大放送のため、法要は午前中に営まれたという。
定価1980円、吉川弘文館(電話03・3813・9151)刊。