PR
購読試読
中外日報社ロゴ 中外日報社ロゴ
宗教と文化の専門新聞 創刊1897年
中外日報社「宗教文化講座」

《宗教とAI⑥》「コンテキスト」育てる責任(1/2ページ)

大阪医科薬科大特務講師 佐々木斎生氏

論2026年10月2日 10時59分
ささき・ときおう氏=1987年、京都府生まれ。東京大大学院数理科学研究科修士課程修了、ワシントン大セントルイス校で博士(数学)取得。専門は代数幾何。大阪医科薬科大特務講師。著書に佐々木閑氏との共著『AIという鏡』(法藏館)。
AIのひらめき

今年の5月、数学の世界で、AIをめぐる大きな出来事がありました。数学者ポール・エルデシュが80年ほど前に提起した「単位距離予想」が、AIの見つけた反例によって覆されたのです。

平面上の点のあいだに、同じ距離の組をどこまで多く作れるかという組み合わせの問題です。AIは単純な総当たりではなく、代数的整数論という別分野の知見を用いて試行錯誤し、予想を破る配置へたどり着きました。

さらに7月には、代数幾何学の未解決問題「ヤコビアン予想」に、数学者がAIを用いて三変数の反例を発見しました。こうした新発見のペースは、いまも加速しています。

ほんの少し前まで「AIには計算はできても、ひらめきはない」とよく言われていました。しかし、こうした成果を目にすると、計算とひらめきのあいだに本当に明確な線引きがあるのかと、考えざるをえません。

もちろん、AIの発見も無から生まれたわけではありません。その土台には、多くの数学者が築いてきた理論があります。エルデシュの予想に代数的整数論を使うという考え方も、AIが初めて思いついたものではありません。

それでも、人間の研究者が分野を横断して粘り強く考え、同じような試行錯誤の末に反例を見つけたなら、私はそれを見事なひらめきと呼ぶでしょう。

「AIは過去のパターンを組み合わせているだけだ」という見方も、ある意味では正しいと言えます。しかし、人間のひらめきもまた、それまでの経験や知識と切り離して考えることはできません。

人の能力・真心への評価

人の頭の中には、学んだ事例や失敗した経験、別分野の考え方などが蓄えられています。私たちはさらに、日々の生活や習慣、触れたものや素朴に思ったことまでもデータとして参照し、そこから共通する理をすくい上げ、離れた事柄のあいだに新しいつながりを見つけます。それが、私たちの呼ぶひらめきではないでしょうか。

注意が必要なのは、現在のAIが「数学者を超えた」という見解もまた誤りだという点です。反例をひとつ発見することと、新しい理論体系を築き、数学の地平を切り拓くことのあいだには、今も途方もない距離があります。

しかし、その距離が大きいことは、そこに人間にしか越えられない質的な壁があることを意味しません。AIの進歩の速さを考えれば、現在は遠く見える二つの地点が、実は想定よりもはるかに近い可能性も十分にあります。

数学におけるこの「ひらめき」は、より広い分野では「創造性」と言い換えられるでしょう。そうすると、「単純な仕事はAIに任せ、人間は創造的で本質的な仕事をすればよい」という想定も、決して確実ではないことになります。

私が実際に心配していることは、しかし、この予想の当否そのものではありません。「人間にはまだ創造性がある」という励ましが、逆に個々人に対する不当な評価へすり替わってしまう可能性です。

AIに置き換えられた仕事を「AIにもできる程度の仕事」と呼べば、その仕事を担ってきた人まで低く評価されます。「最後に残るのは人間の真心だ」と言えば、職を失った人は、能力だけでなく、真心まで足りなかったことにされかねません。

時間と機会の格差

創造性までもがAIによって代替されるようになれば、雇用や産業構造の変化は、個人の努力だけではどうにもならない社会変動となります。その、本来は不可避のはずの喪失が、個々人の内面や人間性の問題へと転嫁されてしまう事態を、大変危惧しています。

そして、この影響を最初に受けるのは、おそらく私よりも若い世代です。

組織にとって最もAIで代替しやすいのは、まだ定型的な仕事しか任されていない新人です。新卒採用の縮小や雇い止めといった形で、こうした人材から順に雇用が失われていくことが想像されます。

「ホモ・ミューチュアル」を提唱 北村敏泰氏9月24日

支え合いに通底する原理 先般の2度目の熊本地震も含めた災害被災者支援、貧困問題や福祉、医療などの現場でのケアや寄り添いを幅広く考察し、あるいは実際の現場で働く宗教者たちに…

なぜ「宗教2世」なのか ケネス田中氏9月18日

はじめに 2022年の元首相銃撃事件の被告は、しばしば「宗教2世」として報道されている。最初に「宗教2世」という用語がメディアで頻繁に使用されるようになった時、私は不満と…

第100回「仏教文化講座」を終えて 常磐井慈祥氏9月11日

堯猷の幼少期と思想形成 兄・篤麿が与えた影響 真宗高田派本山専修寺で8月1~5日、毎年恒例の仏教文化講座が開催された。但し、今年は記念すべき第100回ということで、「堯猷…

『釜ケ崎と福音』 支えられる側にこそ力が(9月30日付)

社説10月2日

異文化伝統との共存 外国人労働者問題への視点(9月25日付)

社説9月30日

ガザの医師の訴え 「憎まない」平和への和解(9月18日付)

社説9月25日
「墨跡付き仏像カレンダー」の製造販売は2025年版をもって終了いたしました。
長らくご愛顧を賜りありがとうございました。(2025.10.1)
中外日報社Twitter 中外日報社Facebook
このエントリーをはてなブックマークに追加