岡目八目
TVやネット配信による将棋観戦は近年、AIによる評価値の表示が導入されたことで大きく様変わりした。AIが盤面を瞬時に判断し、有望な候補手を示したり、どちらが勝勢かを一目で分かるグラフを表示させたりしている。下手の横好きからすると、難解なトップ棋士の対局を分かりやすく楽しむことができ、大変助かっている◆囲碁に、「岡目八目」という言葉がある。はたから対局をのぞいている第三者の方が実際に対局している者よりも良い手を見つけることができる、という意味だ。とはいえ、たとえ良い手が分かったとしても「あそこに打てばよかった」などと横から口を挟むのはご法度。対局者から嫌われてしまう◆現代の将棋AIは、岡目どころか完全な第三者。その上、その意図が人間では解説できない「AIにしか指せない手」を示すことすらある◆問題の渦中にあって行き詰まった当事者よりも、冷静な第三者の方が客観的で的確な判断ができる場面は、日常生活でもままある。様々な人間の悩み事や困り事をAIに相談するような時代が、もしかしたら到来するのかもしれない◆ただし、我々が将棋観戦に求めているのはAIが示した通りの手の無味乾燥な応酬では決してない。対局場に確かに存在する人間ドラマや、人知を超えた一手ならぬ「AI超えの一手」が時に生まれる瞬間なのではないだろうか。(佐藤慎太郎)