鼻つまむ一茶
生涯で2万句以上を詠んだという小林一茶の俳句には、小さな生き物への慈しみを感じさせるものが少なくない。代表句「雀の子そこのけそこのけお馬が通る」「やれ打つな蝿が手をすり足をする」などは、最たる例だろう◆ほかに、こんな句もある。「御仏の鼻の先にて屁ひり虫」。屁ひり虫はカメムシのこと。秋の季語だから、秋彼岸あたりに寺を詣でた時の情景だろうか。よりによって、仏像の鼻先で強烈な放屁をやってのけたのかもしれない◆屁ひり虫ことカメムシが、春先から各地で大量発生しているという。例年は夏から晩秋にかけて多く現れるため、かなり早い。取り込んだ洗濯物にくっついていたり、知らない間に室内に入り込んでいたりして、とにかく始末に負えない◆においばかりではない。大量に発生しているツヤアオカメムシやクサギカメムシなどは、植物や果実に被害を与えることから、法律により病害虫に指定される。関東から九州の25を超す都府県で「カメムシ注意報」が発表される事態となっており、果樹生産への影響が懸念されている◆屁ひり虫を季題とした一茶の俳句はほかに十数句ある。そのうちの一句を引く。「虫の屁を指して笑ひ仏哉」。またも仏像の鼻先で屁をひったのかどうか。いずれにせよ、仏様も笑っていられない状況が続く。さしもの一茶も、鼻をつまんでいるかもしれない。(三輪万明)