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スピリチュアリティーは伝統宗教を駆逐するのか(1/2ページ)

北海道大大学院准教授 岡本亮輔氏

2015年9月2日
おかもと・りょうすけ氏=1979年、東京生まれ。筑波大大学院人文社会科学研究科修了。博士(文学)。専攻は、宗教学・観光社会学。著書に『聖地と祈りの宗教社会学』(春風社)、『聖地巡礼―世界遺産からアニメの舞台まで』(中公新書)。
イベント化する宗教

パワースポット、御朱印集め、一之宮めぐり、仏像ブーム、著名人や歴史上の人物の墓めぐり、各地の祭りの観光化。伝統宗教の危機が語られる一方で、宗教が注目の的になったり、宗教と関わる場所に人が集まっている。2010年、神道の最高聖地である伊勢神宮は860万人の参拝者があった。仏教では今年2015年、高野山開創1200年を祝う大法会が行われた。4月の1カ月間だけで、予想を上回る20万人以上の参拝者が訪れている。

問題なのは、こうした伝統宗教の活況が日常的な宗教生活の再興にそれほど結びつかないことだ。秘仏などの御開帳や四国遍路といった巡礼は、宗教実践の中でも非日常性が高いものだ。そのため、観光や娯楽と結びつきやすい。現代でも、少なくない人が特別なイベントとして宗教に接している。

しかし、日常生活となると、ますます宗教の居場所はなくなっているように見える。若年層に限って言えば、墓参りや法事、初詣や七五三以外で寺社を訪れる人は少ないだろう。悩みや相談事がある時に宗教者の元へと赴く人となると、ほとんどいないのではないか。さらに言えば、仮に宗教者の所へ行ったとしても、僧侶や神職ではなく、占い師や霊能者だったりするのではないだろうか。

スピリチュアリティー―ガイドされない宗教性

現代では、伝統的な教団や宗教者と無関係に宗教が受容・実践される局面が増えている。個々人が思い思いに宗教を消費する個人化が広がっている。スピリチュアリティーは、そうした傾向を指す概念だ。

スピリチュアリティーについては様々な定義が提出されてきたが、筆者は、伝統宗教との対比で理解している。一言で言えば、伝統的な教団に管理された方法で聖なるものにアクセスするのが宗教で、個々人が自発的に聖なるものにアプローチするのがスピリチュアリティーだ。宗教もスピリチュアリティーも、いずれの核心にも聖なるものがある。要するに、聖なるものへのアプローチが伝統的な仕方でコントロールされているか否かの違いである。

そのように考えると、スピリチュアリティーの興隆とは、誰もが聖なるものへ自己流でアクセスするようになることだ。こうした状況は、伝統宗教の支配力が低下した先進社会では広くみられる。聖地巡礼の流行は、その帰結の一つと考えられる。宗教学者の星野英紀氏が指摘する通り、巡礼は、宗教者がほとんど介在しなくとも可能な宗教実践だ。巡礼とは聖地への移動に他ならない。その移動プロセスの宗教者のいないところで、自己実現したり、気づきを得たりしているのである。

伝統宗教にはあまり都合の良くない状況だ。だが、こうした趨勢はこれからも続くだろう。何も宗教だけが、受容者の自発性に戸惑っているのではない。たとえば、テレビも同様だ。今の視聴者は、テレビ局側が見せたい時間に家族でテレビの前に陣取り、最初から最後まで視聴してくれない。基本的には録画しておいて、見たい時に見たい部分を見る。ネット上に違法にアップロードされた動画で済ませてしまう人もいる。面白そうなところだけをつまみ食いして、テレビ局側にとって最も肝心なコマーシャルは飛ばされてしまうのだ。

テレビでの喩えを続ければ、チャンネル自体が増加している。日本では、キー局を中心にした寡占状態が続いてきたが、今では海外のテレビ番組の視聴も容易だ。宗教の領域でも、チャンネルの選択肢の増加が見られる。伝統宗教の他にも、いくらでも宗教的なものが存在する。新たに生まれる宗教もそうだろうし、疑似宗教的な運動もある。ネットでは、様々なワークショップやセミナーの情報が入手できる。

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