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「寺子屋学習塾」で地域社会の再興を(1/2ページ)

学校法人清風明育社参与・前高野山大特任教授 今西幸蔵氏

2025年6月27日 13時13分
いまにし・こうぞう氏=1947年、大阪府生まれ。大阪府立高および大阪府教育委員会に勤務後、京都学園大、天理大、神戸学院大の教授、高野山大文学部教育学科の特任教授などを歴任。専門は生涯教育論(学校教育・社会教育)。日本生涯教育学会会員。著書は『生涯学習論入門』など多数。
社会に構造的な変化

全国の地域社会に危機的な事態が発生している。既存の組織が崩れ、構造的な変化が起き始めているのである。自治会が、子ども会が、PTAが、未だ一部ではあるが活動を閉じている。理由は地域によって相違するが、都会は住民の価値観の変化であり、地方は人口減少の問題があり、こうした残念な事態を迎えている。

契機はコロナ禍であった。2年近くの日常生活の停滞を終えて、現在は回復途上にあるが、停滞の間、これまで組織的な地域活動に意欲を持って活動・参加してこなかった人々の中の一部で、活動に参加することへの懐疑が生まれ、この機会に活動から退くという機運が生まれた。こうした状況を放置すると、地域社会の仕組みが機能しなくなり、皆が安心できる生活の足場を無くす可能性がある。

地域の自治組織や社会教育関係団体を核にした地域社会の組織と、それを成立させている社会構造の在り方を根底から捉えなおす必要がある。すべての地域住民を対象に、さまざまな領域の「学びの居場所」として、寺社所有施設の一部開放をお願いできないだろうか。世代によって何を学びたいのか、他者とどう学び合うかは異なるが、生涯学習の考え方に立ち、「いつでも、どこでも、だれもが学べる」場を寺社が提供して下さることを期待している。

この提案に至ったのは今、全国的に注目されつつある若者の実践活動の実例があるからだ。彼らは、地域社会に、憩いの場、語り合う場、学び合う場、保育の場として機能する界隈をつくろうとしている。例えば、「カタリバ」(代表:今村久美)という名前の「居場所」づくり運動がある。東日本大震災の被害を支援していた慶応義塾大学生たちが、東京でNPOを組織し、子どもを対象とした福祉・保育・教育分野に関わる活動を運営しており、それに呼応した大勢の若者が参加、支援している。

この運動が全国的に広がり、島根県益田市では「ユタラボ」という活動が展開されている。本試案は、この活動から発想を得ており、全国各地の寺社に「カタリバ」的な学びの「居場所」設置を提案するものである。寺社による「居場所」は、子どもも対象とするが、多くの成人対象の学びの場である。

近世の寺子屋教育

近世江戸時代には、今日で言う学校はなかった。庶民には、学校に代わる民間教育の場としての寺子屋があった。寺子屋教育は、室町時代後期に寺院で実施されていた子弟教育に端を発すると言われている。寺子屋では、基本的には個別授業が実施され、子ども一人ひとりの発達に合わせた教育課程が提供されていた。対象となる子どもの学力や学習段階に応じて、寺子屋師匠は学習課題を命じていた。

こうした個別授業に加えて、一斉授業として九九の唱和などの音読が実施され、儒学の経典やお経を読む際に、集団で唱道したことが伝えられている。最近の脳医学研究の成果として、教育領域で特に注目されているのが音読の効果である。「声を出すこと(音声知覚や音声生成)」と知覚の間の相互作用の存在があるとされ、その教育効果が実証されつつある。

今の時代に大声を出せる場所は限定され、寺社のような広い場所は数少ない学びの場である。寺子屋での学習目的は明確で、子ども自身や家族の生活に必要な実践的なことに関わる知識、また道徳律を学んでいた記録がある。寺子屋のおかげで、近世江戸時代、日本の識字率は滋賀県調査では、およそ66%と言われる。この数字は全国的な数値として考えて良いだろう。当時の欧米は2~4割だったとされる。寺子屋は初等教育の場であり、「読み、書き、算術」(リテラシーやニュメラシー)を習熟した上、現代の学校教育では得られにくい非認知能力を育成する機能があった。

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