意思決定支援の試み その人らしさの重要性(10月29日付)
人を支える働きの中で、支援者と被支援者間の意思疎通が大事なのは言うまでもない。中でも医療や福祉・介護の分野で、また自ら意思表明が困難な重度の障がい者をケアする現場では、困難を伴いながらも決定的に重要な課題だ。
多数の障がい者が殺傷された津久井やまゆり園での事件を受け、その後の同園の「再生への模索」を追ったドキュメンタリー番組が先頃NHKで放送され注目を浴びた。最大のキーワードは入所者への「意思決定支援」。事件を起こした元職員の男が、犯行に当たってしゃべれない入所者を重点に襲撃し、逮捕後に「意思疎通ができない障がい者には生きる意味がない」などと誤った優生思想を吐露したことを受けている。
再開した同園の介護職員は、事件前には自分が入所者一人一人の希望や考えに寄り添えず、それぞれの意思に関係なく半ば“機械的”に仕事をこなすような姿勢が、当時部下だった元職員に悪い影響を与えたのではないかとの趣旨の反省を語る。
そこから入所者数を大幅に減らした現在は、個々の入所者にしっかり向き合い、当人が何を求めているのか、何がしたいのか、たとえ言葉で訴えなくともその意思を受け止めることを重視。また、そこに至る意思決定の過程にも共に行動するなどで伴走する。支援専門チームや事例研究論文もある。
これについて、かつて長年同園で介護職を務めたOさんは「お一人お一人の希望に対応することはできませんでした」と振り返る。当時は最大200人もが入所、「その日その日を無事、安全に過ごすことにきゅうきゅうとして」おり、衣食住と医療、日常活動、各種行事や大きな年中行事に追われる中で「利用者の嗜好や趣味、要望は、集団生活の下では保障されていませんでした」と。
所用で外出に同行した女性入所者が一緒に入った食堂で、丼物の温かいご飯に感激したという。園では大食堂で全員の配膳が長々と続き、それが終わってから号令で一斉に食事をするのだ。「管理が第一でした」と、この逸話を話したOさんは事件後「共に生きる社会を考える会」を主宰し、事件犠牲者の追悼とともに、一人一人のいのちを見つめ、その人らしさと生き方を尊重することの意義を訴え続けている。
福祉施設や制度運営のあり方だけの問題ではなく、例えば災害支援でも、打ちひしがれた被災者が本音を明かさないことがよくある。人に寄り添うということ全般に通じるこの課題に、宗教者も考えるべきことは多いだろう。






