PR
購読試読
中外日報社ロゴ 中外日報社ロゴ
宗教と文化の専門新聞 創刊1897年
2025宗教文化講座
PR
2025宗教文化講座 第22回「涙骨賞」を募集

《「批判仏教」を総括する③》仏教文学に基づく「批判仏教」(1/2ページ)

元駒澤大教授 袴谷憲昭氏

2025年10月3日 15時11分
はかまや・のりあき氏=1943年、北海道出身。72年、東京大大学院博士課程(印度哲学)満期退学。専門は仏教思想史。元駒澤大仏教学部教授。現在、駒澤大仏教経済研究所研究員を務める。著書に『批判仏教』『本覚思想批判』『法然と明恵 日本仏教思想史序説』『唯識思想論考』『仏教文献研究』など。
威を振るう「場所仏教」

私は「批判仏教」を主張し続け直近では『律蔵研究序説』(私家版、2024年、以下『律研序』と略す)を刊行しているものの、現実は「批判仏教」に対峙する「場所仏教」の方が益々威を振るっているように私には思われる。従って、本稿はその現況に焦点を当てた上での論述となろう。

先ず「批判仏教」は「仏教文学(Buddhist literature、仏教文献)」に基づいて展開されなければならないが、現状ではこの姿勢が極度に落ち込んでいるように見受けられる。「仏教(buddha-vacana、仏の言葉)」とは、「三蔵」という「仏教文学」に他ならないが、「三蔵」の重視度には軽重の違いこそあれ、「三蔵」を無視した仏教教団なぞありはしない。いずれの仏教教団も、経と論の二蔵に示される「哲学」「思想」を踏まえながら、律蔵に反映されるような「生活」「習慣」と取り組み、その長い解釈の歴史の中で更に大乗経典さえ含む大部の「仏教文学」を形成してきた(『律研序』、136―167頁参照)。その代表が「南伝」ではパーリの上座部、「北伝」では説一切有部に他ならない。

かかる展開の中で、仏教教団も集団である以上比丘たちが互いに群(vagga, varga)を作って諍いを起すことも多かったようであるが、しかし、諍いがあれば、その決着は基本的に、群の頭数の多さによるのではなく、「三蔵」の「学習」を究めたことに基づく議論の正しさによらなければならなかったのである(『律研序』、168―199頁参照)。

ところが、かかる決着が仏教の正しいあり方だと思っていた私の眼前に突然びっくりするような記事が飛び込んできた。戦後民主主義は神話だと語る山折哲雄の今年6月10日の『毎日新聞』の記事である。話の途中で、山折はアインシュタインとフロイトの往復書簡『ひとはなぜ戦争をするのか(Warum Krieg?)』(Paris,1932)にも触れ、戦争を止めるにはフロイトの「軍事力に基づく平和」に帰着せざるを得ないような考えでは駄目で、結論的には、アヒンサーのガンジーの思想、更には西洋の思想とは違う日本の神仏習合のような多元的な思想でなければならないと仰っている。しかし、この件に関し、私は「無根信」に関する論考(『律研序』「序論」第16論文の元論文)の註50で、アインシュタインが平和のためには各国の話し合いによる主権の一部の「無条件放棄(der bedingungslose Verzicht)」しか道はないと主張されていることこそ仏教に近いと思い賛意を表していたのである。

しかるに、山折の仰る神仏習合の多元論は、仏教ではありえず、アニミズム讃美の梅原猛の多元論に同化する他はあるまい。そして、多元論のヒンドゥー教がカシュミーラでパキスタンと争っていることも忘れてはならないのである。

「垂線記号」的「伽藍」仏教

ところで、戦争に関する「仏教文学」で有名なものには、仏教教団のどの部派にも伝承されていたと思われる「シャカ族滅亡譚」がある。この話の最も後代の成立と考えられるのが説一切有部の『律雑事』分節ii-4(『律研序』、307頁参照)に含まれるものであるが、その極小の要旨については、『律研序』「序論」第19論文の元論文、116―117頁と註45を参照されたい。この話の有部的な特徴は、「見諦」の人は殺人の戦争には加わらないこと、業の鉄則は世尊といえども変更できないこと、という二点に絞ることができ、それがためにシャカ族は滅んだとされるのであるが、ここに殺人と業に関する有部の見解が仄見えているにせよ、本話が「生活」「習慣」に関る律蔵のものである以上、この見解はやはり有部の「哲学」「思想」である『大毘婆沙論』を前後する経論を踏まえながら批判的に検討されなければならず、それは今でもそうでなければならないと思う。

《「批判仏教」を総括する➁》現象主義的縁起説と基体説 末木文美士氏9月26日

「縁起説」対「基体説」 思うに、松本史朗氏が『縁起と空――如来蔵思想批判』(大蔵出版、1989)で提示した縁起説対基体説という対立図式はきわめて適切なもので、時代を経ても…

《「批判仏教」を総括する➀》「批判仏教」論争の本質を問う 石井公成氏9月19日

かつて「批判仏教」と呼ばれる思想運動が駒澤大学を起点に日本仏教界に大きな衝撃を与えた。あれから数十年。今、改めて「批判仏教」とは何だったのかを問い直す。学識者7人による連…

【戦後80年】被団協ノーベル平和賞受賞の歴史的意義 武田龍精氏9月10日

核兵器は人類の虚妄である 核兵器がもたらす全人類破滅は、われわれが己れ自身の生老病死を思惟する時、直面しなければならない個人の希望・理想・抱負・人生設計などの終りであると…

大事なのは関係性 被災地での支援活動で(10月1日付)

社説10月2日

スマホの使い方 ルール作りを共に考える(9月26日付)

社説9月30日

無知故のマナー違反 備えによりて憂いを減らす(9月19日付)

社説9月25日
  • お知らせ
  • 「墨跡付き仏像カレンダー」の製造販売は2025年版をもって終了いたしました。
    長らくご愛顧を賜りありがとうございました。(2025.10.1)
  • 論過去一覧
  • 中外日報採用情報
  • 中外日報購読のご案内
  • 時代を生きる 宗教を語る
  • 自費出版のご案内
  • 紙面保存版
  • エンディングへの備え―
  • 新規購読紹介キャンペーン
  • 広告掲載のご案内
  • 中外日報お問い合わせ
中外日報社Twitter 中外日報社Facebook
このエントリーをはてなブックマークに追加