能登の季刊情報誌 あふれる郷土への愛着(11月14日付)
石川県域の情報誌『季刊 能登』が幅広く注目を集めている。特に能登半島地震以降は、被害の記録や復興への歩みを詳述、被災寺院の特集もした。格調高く、A4判100㌻近い圧巻の誌面を制作しているのは実は地元寺院住職。随所に故郷への思いがあふれている。
「地産地消」をキーワードに能登の文化や食、資源などを紹介する趣旨で2010年秋に創刊、地元密着の記事を載せてきた。一部の外注を除き、元新聞記者で輪島市の真宗大谷派寺院を預かる経塚幸夫氏が、企画、取材執筆、編集から営業までこなし、県内・北陸を中心に3500部を発行する。
転機は24年元日の能登半島地震で、経塚氏の寺や編集室、関係者も数多く被災し、発行寸前だった号は休刊。しかし自分たちに降りかかった大災厄に真正面から向き合おうと、同年春の第55号では「ここから始まる〈のと新世紀〉」のテーマで地震を総力特集した。
各被災地の写真やルポ、被災者の証言を詳しく収録し、地震と津波、隆起や火災も含む夥しい点数の衝撃的画像と記述で、空前の被害を出した震災の全容を示す。各市町住民リポーターの体験報告、避難所や罹災証明、仮設住宅など被災者の生活に密着した情報を時系列で重層的にまとめた「被災者の4か月」というドキュメント。研究者による防災面の分析や活断層の解説、トラブルが起きた志賀原発についても豊富な科学的データを示しながら展開している。
その膨大で精緻な情報は、この地震災害の第一級記録資料と言えるが、加えて「この災害の意味するもの」との論考や、今後の復興の在り方や教訓についての識者インタビューなどが、あくまで「これからもこの地に生きる当事者」としての郷土愛を物語っている。
近刊60号の「地震と寺院・文化財」特集は「進む解体、進まぬ修理」と題し、地震から1年半以上経ても以前に戻れない各地の寺の実情が30㌻にもわたって紹介される。市町別に各寺の被災状況のほか、行政からの復旧復興支援の在り方、破損した仏像などの「文化財ドクター」の情報も分かりやすく説明している。
著名な建築家谷口江里也氏が、人々の生活感覚と地域の風景、宗教施設の意義を論じた寄稿「郷と寺院――地域協働体にとっての象徴」は出色。そして、編集後記で自らの被災を振り返りながら、「なくして初めて分かる有難味」「寺を含む『文化的景観』が大事」と力説する経塚氏の言葉が心に響く。問い合わせは、電話090(2035)0384。





