病棟で患者に寄り添う 真の願い 気付く一助に
滋賀県長浜市 真宗大谷派持専寺 笠原俊典住職
稲荷山武田病院(京都市伏見区)の緩和ケア病棟で、チャプレンとして死に直面した患者の苦悩に向き合ってきた。長年の経験を通じて、患者が「真の願い」に気付く手助けをすることが自身の役割だと確信する。
出勤すると午前中に病床を回って、患者の様子を確かめる。病状が悪化して暴れだす患者や、寂しげな表情の患者を見つけると、そっと傍らに寄り添って耳を傾ける。
「行くのが嫌やなと思った時もあります」。ある男性患者は顔を合わせるたびに「死にたい」「何で殺してくれへんのや」と口にした。その訴えを静かに受け止めながらも、あまりのつらさに心が折れそうになった。
ある時、その男性患者の妻がつぶやいた一言にハッとした。「夫は、本当は死にたいわけじゃないと思います」。言葉の裏にある本当の願いを聞き取れていなかった自身の不明を恥じた。
チャプレンに出会ったのは大学卒業後に開教使として過ごした米国でのことだった。開教使として訪問した病院は、どこもチャプレン資格を持つ宗教者が患者の心をケアしていた。チャプレンにはキリスト教以外の宗教者もいて、生活費は派遣元の団体が支給していた。
自身も約1年半、ハワイでチャプレン養成のカリキュラムを受けた。日本でも宗教者による心のケアが必要になると感じ、帰国後は福祉施設での勤務を経て約10年前に現在の病院にチャプレンとして迎えられた。
「我々が心の救いを求めているのに僧侶は今まで何をしてたんや。もっと患者や家族の声を聴いてほしい」。ある時、京都がん医療を考える会の会長からこう叱咤された。日本ではまだまだ定着していないと思っていただけに、背中を押された思いがした。
「大病院でも医師や看護師が一人で多くの患者を診なければならず、とても患者の心の声に耳を傾ける余裕がない。だからこそ、宗教者によるケアが求められている」
半面、チャプレンを受け入れる病院はごくわずか。チャプレンは診療報酬の対象外なのが障壁にもなっている。「必要とされているのに働ける場がない」。この課題に宗派の枠を超えて対応していく必要性も感じる。
「大切なのは寄り添うことで、患者さんが願っている世界に自らで気付いてもらうこと」。確固とした信仰を持っている宗教者だからこそ、患者の信仰に共感を寄せ、互いに尊重し合える関係が築けるとの思いがある。
(岩本浩太郎)






