鏡如上人(大谷光瑞)及び籌子裏方年譜…赤松徹眞編
浄土真宗本願寺派第22代宗主の大谷光瑞(鏡如、1876~1948)とその妻・籌子(1882~1911)の事績を同時代の政治・社会の動きと対照しながら年譜の形で集成した。両者の「御消息」「御親示」「御直諭」「直示」と、近代仏教史研究で知られる編者の論考「大谷光瑞の生涯と思想及び行動」も収録している。光瑞の生涯をたどる年譜は様々あるが、本書は宗派の機関誌や宗教専門紙、各種研究書など60以上の史資料を参照している。
光瑞は大谷探検隊による仏跡調査の業績の一方、多額の負債で管長・法主の引責辞任を余儀なくされたことで知られるが、本書では「開明性をもった啓蒙専制宗主」として教団の組織改革や世界各国への視察に取り組み、宗主引退後もアジア各地で農業事業などを立ち上げ、資源・地域開発などを構想し、満州国論、大東亜共栄圏も論じたことなど広くその事績を網羅している。サンスクリット初期仏典の翻訳に基づく仏教理解や独自の教団批判論も興味深い。
そこには日本の海外侵出を巡る国策追従の姿勢といった暗部も付随するが「近代日本の仏教者として稀有な存在」である光瑞一人の人生だけでなく、日本の近代史の光と影についても深く考えさせられる。
定価1万5400円、永田文昌堂(電話075・371・6651)刊。



