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「宗教2世」をめぐる用語と意味の変遷

道蔦汐里氏

1.はじめに

1-1 「宗教2世」という用語の広まり

本稿の目的は、「宗教2世」という用語について、類似した意味で用いられた他の用語を整理し、類義語と「宗教2世」という用語に様々な主体が込めようとした意味とその変化11単語の意味の変化をみるにあたっては、斎藤純男(2010)がまとめた、単語の意味変化(semantic change)の6類型である、意味の拡大・意味の縮小・意味の向上・意味の下落・隠喩・換喩を参照し、単語の使われ方や定義のされ方に注目して、分析を試みた。、そしてそれらの相違を考察することを通じて、今後の宗教学において「宗教2世」概念をどのように扱うべきかを考察することにある。

「宗教2世」という用語は今や人口に膾炙し、論文やメディア報道、書籍、団体名などに使用されている。「現代用語の基礎知識選 2022ユーキャン新語・流行語大賞」トップ10にも選出されたように、この用語の社会的広まりは2022年7月8日の安倍晋三元首相銃撃事件(以下、銃撃事件)が契機となっているといってよいだろう。

しかし、この「宗教2世」という用語は、様々な主体によって微妙な差異をまといながら認識・理解され、使用されているように見える。それゆえに、「宗教2世」という用語の定義に関して疑義が呈されている状況ともなっている。

そこで本稿では、「宗教2世」という用語に関わる3つの主体、研究者を中心とする宗教学、全国紙・宗教専門紙・雑誌などからなる報道、「宗教2世」当事者の個人・団体に着目し、それぞれが「宗教2世」やその類義語を、どのように意味付け、使用していたのかを整理していく。

1-2 「宗教2世」の定義に言及した論考

本稿では「宗教2世」という用語自体の議論を目的とするため、本節では「宗教2世」という用語そのものの定義について言及している論考・先行研究を取り上げる22それ以前から使われていた「宗教2世」の類義語や、それらを用いた信仰継承研究などは後述する。

これまでいくつかの論考・先行研究において、「宗教2世」という用語の定義の提示や、その定義に関する議論がなされてきた。銃撃事件以前には、塚田穂高が2021年の『朝日新聞』において、「宗教2世」を「特定の信仰・信念を持つ親・家族とその宗教的集団への帰属の元で、その教えの影響を受けて育った子ども世代」と定義している33塚田穂高「「宗教2世」問題 信者だけの話ではない」『朝日新聞』、2021年7月14日夕刊、2。。その後、塚田は映画「星の子」を分析した論考においても、同様の定義を用いて「宗教2世」を説明しており[塚田2022:393]、これが学術研究の中で「宗教2世」という言葉が定義とともに学術用語として用いられた初出であると思われる。またそれに先立って、自身も「宗教2世」当事者であり、2020年5月から自助グループ「宗教2世の会」を主催している文学・当事者研究の横道誠が、「宗教2世問題とは何か」と題する記事で、「宗教2世」を「親が信仰している宗教を同様に信仰している、また信仰していた子を指す」と紹介している44横道誠「宗教2世問題とは何か」『中央公論』2022年2月号、2022年1月10日、108-115。

銃撃事件後には、社会調査支援機構チキラボの荻上チキによる『宗教2世』(太田出版、2022年)が、いち早く「宗教2世」という用語をタイトルに用いて出版された。同書は「宗教2世」らを対象に実施したアンケート調査がまとめられた書籍であるが、「宗教2世」を「宗教を信仰している親・家族の影響のもとで育った者」であるとしつつも、「新興宗教の「2世」に用いられることが多い印象」があると言及している[荻上編著2022:16]。

研究者やジャーナリスト、当事者、支援者らが携わった論集『だから知ってほしい「宗教2世」問題』(筑摩書房、2023年)においては、塚田が「宗教2世」を「特定の信仰・信念をもつ親・家族とその宗教的集団への帰属のもとで、その教えの影響を受けて育った子ども世代」と定義している。そのうえで、「「宗教2世」問題」を、「何らかの「宗教2世」当事者が、その帰属や生育環境、家庭と集団における規範や実践の規定力・影響力ゆえに、何らかの悩み・苦しみ・つらさを抱えて生きていかなければならないという人権問題・社会問題のこと」と定義した[塚田2023:10]。ここでは、塚田が銃撃事件以前に示した「宗教2世」自体の定義に変更はないものの、「宗教2世」という用語とは区別する形で「「宗教2世」問題」という「問題」が付いた用語について新たに定義を行っている。

この塚田の定義に対し小島伸之(2024)は、「宗教2世」という用語には「特有の意味」が込められ、「当事者用語」「メディア用語」「インターネット・ミーム」として使用されてきたもので、従来は「カルト2世」「カルト2世問題」「2世問題」などと呼称されてきたと説明した[小島2024:10-11]。そして塚田(2023)による「宗教2世」「「宗教2世」問題」の定義について問題点を指摘し、これらの用語は学術的に定義するようなものではなく、一般語や報道語として、問題の所在と範囲を大まかに示す単語として理解すればよいと主張し、「いわゆる「宗教2世」」と表記するのが妥当であるとした[小島2024:16]。

また先述の横道も書籍において、「一般的には特定の宗教(新宗教のことが多いけれど、伝統宗教のこともある)を信仰する家庭に生まれ、宗教教育を施された信者」が「宗教2世」と呼ばれ、場合によっては3世以降も含むとしつつも、「宗教被害を受けたと考える脱会者に限定するのが適切ではないかと思う」との提起を行っている[横道2023c:2-3]。

以上のように、「宗教2世」という用語については、銃撃事件以前から塚田や横道により定義が示され、以後には書籍などを中心として、類似しつつも、微妙な差異を有しながら使用され、批判的な検討もなされてきた。しかし、小島が指摘するような「宗教2世」という言葉に込められた「特有の意味」の詳細についてや、これまで使用されてきた類義語との連続性については、十分な議論がなされていないといえる。本稿では、「宗教2世」や信者の子弟を表すために選択されてきた類義語と、そこに込められた意味と、持ってしまった意味合い、そしてどのような概念を表す用語が求められたのかの変遷を、各主体別に、なるべく通時的に見ていくことで、「宗教2世」という用語を学術研究において用いることの妥当性や意義について検討する材料を提供したい。

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    長らくご愛顧を賜りありがとうございました。(2025.10.1)
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