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「宗教2世」をめぐる用語と意味の変遷

道蔦汐里氏

4.当事者らにおける用語とその意味の変遷

4-1 銃撃事件以前の当事者らの活動と用いられた用語

本章ではいわゆる「宗教2世」の当事者らが、銃撃事件以前・以後にどのように発信してきたかについて、「宗教2世」という用語とその類義語を使用したものを中心に分析する。

銃撃事件以前から当事者らが声を上げていたことは多く指摘されているが、それらはルポや手記、漫画、ブログ・SNSでの投稿などの形態であった3535以前から、いわゆる「カルト」問題の文脈では、ジャーナリストや弁護士らによる書籍なども存在していたが、本稿では「宗教2世」という用語やその類義語を使用した当事者らによる発信について分析するため、それらの論考については言及しない。。しかし当事者らが自ら直接的・積極的に発信を始めることができ、かつそれが不特定多数の人間に届くようになったのは、SNSの普及を中心とするメディアの変化によるところが大きい。塚田(2023)も指摘するように、特にTwitterが果たした役割は大きく、Twitterの検索コマンドを使用し「宗教2世」という用語を検索すると、古いものでは2009年頃から「新興宗教2世」「某宗教2世」などの様々な表現が見られ、2013年頃からは当事者と思われるユーザーの投稿が見られた3636Twitterにおいて「宗教2世」という用語が初登場するのは2011年頃である。また2016年2月5日にはウェブサイト「かわいいフリー素材集 いらすとや」が「独特な新興宗教(カルト宗教)を信じる夫婦から生まれた子供が、複雑な表情で家族と向き合っているイラスト」として「宗教の二世のイラスト」を公開したというツイートが残っている。

メディアの変化に連動する形で、2010年代には漫画・エッセイなどが相次いで出版された。先述の通り、2017年12月に刊行された『よく宗教勧誘に来る人の家に生まれた子の話』は大きな反響を呼び、報道においても宗教専門紙に限らず取り上げられていたが3737「宗教2世」に関する創作物については横道(2023b)に詳しい。、この時点においても発信の主体は当事者個人によるものであり、一体験談の共有に留まっていたといえる。用語はあまり使用されず、『よく宗教勧誘に来る人の家に生まれた子の話』では、帯に「2世信者」とあるのみで、漫画の本編で一度「2世」と使われるに留まっている。翌2018年5月刊行の、たもさん『カルト宗教を信じてました。』(彩図社)においても、カバーと帯に「エホバの証人2世」とあるのみで、漫画本編や「おわりに」で類義の用語は使われていない。

そこに、「宗教2世」という用語を使用したゆるやかな集団として現れたのが、2020年5月5日に開設された情報共有サイト「宗教2世ホットライン」である。同サイトでは、「宗教2世」を「「自ら信仰を獲得したわけではないが、親がある教団の信者であり、出生時あるいは幼少期から教団の影響を受けて成長した人」を指します。広義の意味で3世や4世も含まれます」としている。掲示板的な性格を有するものではあるが、様々な教団の現役信者・脱会者・第三者が交流できるウェブサイトは画期的であったといえる。また時を同じくして、2020年5月には前述の横道によるオンラインの自助グループ「宗教2世の会」が発足している。

以上を整理し、使用された用語の変化に着目すると、銃撃事件以前からSNSを中心に行われていた当事者らによる個人的な発信では、「新興宗教2世」「某宗教2世」などの用語や、特定の教団の文脈で単に「2世」あるいは「教団名+2世」といった表現など、発信者ごとに様々な言葉が用いられていたといえる。2020年頃を画期として、「宗教2世」という用語が、自身の親が宗教の信者であることで生きづらさや悩みを感じてきた人々によって、教団の垣根や現役信者・脱会者の枠を超えて、体験を共有するための「共通語」として広まっていったといえる。

「宗教2世」という用語を多くの当事者が選ぶようになり、「宗教2世ホットライン」の名称に使われるに至った経緯については、SNSにおいて広まった過程を分析する必要があるが、それは本稿の趣旨とは異なるため、推論を述べるに留めたい。各教団の「2世」としての体験を、脱会・離脱した元信者の間だけでなく、今まさにその立場にある現役信者とも共有するために、現役信者と脱会・離脱者を包括した概念が求められたことや、「私はもう信者ではない」「信仰はもう有していない」という意思の表れなどがあったと考えられる。そのことが、すでにあった「2世信者」「カルト2世」ではなく、それらに替わる「宗教2世」が受け入れられた背景と考えられる。特に「カルト2世」が選択されなかったのには、塚田(2023)や宗教2世ホットラインが指摘するように、当事者らの尊厳・倫理的側面が大きく関係しているだろう。

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