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「宗教2世」をめぐる用語と意味の変遷

道蔦汐里氏

6.おわりに

本稿では「宗教2世」という用語とその類義語が、宗教学、報道、「宗教2世」当事者らによってどのように選択され、用いられてきたかについて整理し、各主体が込めようとした意味とその相違、その変化を考察してきた。

「宗教2世」およびそれ以前から使われていた「2世信者」は、ニュートラルな意味で用いていたものに、問題を抱えている人々という印象が付いてしまったり、包括的な意味で使おうとしたものが、限定的な意味で使われるようになってしまったり、といった形で、意味の変化が生じていた。

当事者らが使用を始めた「宗教2世」という用語は、宗教学の側からするといわば借用する形で取り入れたものである。学術的に定義して使用するにあたっても、「宗教2世」が社会の中で広く一般に使われるようになり、意味の変化に曝されていることを無視することは困難であり、これを考慮する必要があるだろう。特に、社会にその「問題」の存在を提起しようとするのであれば、社会で通用している意味と、学術的定義の間に大きな相違があっては、意図が正しく伝わりにくくなると考えられる。

こうした変化が生じていくことも念頭におきつつ、最後に、「宗教2世」概念を今後学術研究においてどのように扱っていくことが考えられるか、いくつかの展望を述べたい。

Ⅰ 宗教学上の用語としての「宗教2世」:報道や当事者の使い方から離れ、宗教学上の用語として「宗教2世」を確立していく。そのためには、「宗教2世」という用語を用いる研究上の意義を確かにしていく必要がある。特に、これまで「2世信者」という観点から、家庭における布教のあり方を論じてきた信仰継承研究においては、「宗教2世」という観点を導入することで、脱会・離脱者や非信者を含めて論じることや、教団あるいは学校・交友関係など家庭外の人間関係に注目することの重要性を再確認することに繋がるだろう。そのためには、「①信仰を問わない、②2代目以降、③状態を問わない、④宗教教団全般(伝統宗教も含む)/スピリチュアルなど宗教教団以外も含む」といった広い定義での「宗教2世」を用いることが、「2世信者」よりも視点を広げる上で有意義といえる。また、「宗教2世」の観点は、スピリチュアル研究や、昨今の「宗教的ではないがスピリチュアル(SBNR)」まで包摂して論じうる可能性があることから、④に「スピリチュアルなど宗教教団以外も含む」方が、より望ましいだろう。ただしこの場合、社会で通用している一般語や報道語としての意味と、学術的定義の間の相違は解消されないことになる。

Ⅱ 広い定義の新しい用語を設定:銃撃事件後に研究の側から挙がった「宗教2世自覚者」や「親の宗教と葛藤する子」(脚注8)といった新しい用語の提案は、いずれも③を「虐待等を受けている」または「悩みや生きづらさがある」に限定する狭い定義のものであり、一般語や報道語としての「宗教2世」の言い換えであった。しかし、宗教研究、特に信仰継承研究で用いるにあたっては、Ⅰで示した「①信仰を問わない、②2代目以降、③状態を問わない、④宗教教団全般(伝統宗教も含む)/スピリチュアルなど宗教教団以外も含む」という広い定義の用語こそ必要となる。そこで、この定義で新しい用語を設定することが考えられる。例えば、本人ではなく親などの上の世代が布教をうけ、入信したということを踏まえて「入信2世」4242「入信2世」は、清水他(2021)による「入信2世世代」という形での使用例があるが、同論文の他の箇所は「2世信者」を用いており、現役信者の中の世代を示す表現となっている。「布教2世」という表現も考えられるだろう。このように新しい用語を設定することで、「入信2世」の中でも「悩みや生きづらさがある」のが「宗教2世」であり、「宗教2世問題」とは、彼らの抱える問題である、という形に整理することも可能となる。ただし、このような区別により、「宗教2世」という用語は、ますます一部の「カルト」だけの、一部の苦しんでいる人たちだけのものとされ、「宗教2世」の問題を身近なものとは捉えにくくなる恐れはあるだろう。

上記のいずれの方法が学術上、そして社会問題を論じる上で有意義であるかは、今後の研究動向にもよるであろう。「宗教2世」という用語が拡散した今日において、本稿はその背景、変遷を整理し、「交通整理」を行ってきたが、これが今後の議論の土台となってほしいと願う。一時的なブームとしてこの社会問題を消費してしまわないよう、引き続きの議論が待たれる。

追記

本稿は、2023年9月6日の日本社会病理学会第39回大会・テーマセッション「宗教現象の現在と社会病理―新宗教をめぐる問題を中心に」での発表(「安倍晋三元首相銃撃事件以後の新聞・雑誌における新宗教報道―統一教会と「宗教2世」に着目して」)と、2024年6月16日の「宗教と社会」学会第32回学術大会・テーマセッション「「宗教2世」問題の宗教社会学―社会・メディア・教団・家族・ジェンダー―」でのコメント(「新宗教研究からみる各教団の特殊性・共通性および「宗教2世」問題とメディア報道」)の内容を加筆・修正したものを含む。

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