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「宗教2世」をめぐる用語と意味の変遷

道蔦汐里氏
5-2 意味の変遷――「宗教2世」の使用の広がりと意味の拡大・縮小

前節で確認したように、用語自体は全体的に「2世信者」から「宗教2世」へと変化していった。特に銃撃事件以降は以前と比較して「宗教2世」という用語を用いた報道が激増しており、これに伴い「宗教2世」という用語が有する意味は多様な広がりを見せた。

以上を踏まえ、多様化した意味を次の4つの観点から整理する。本人の親や祖父母などの親族が宗教的集団の「信者」である子どもであることは共通した上で、

①本人の信仰 現役信者のみ/元信者(脱会・離脱者)のみ/信仰を問わない(現役信者・元信者・非信者も含む)
②本人の代目 2代目のみ/2代目以降(3代目以降も含む)
③本人の状態 虐待等を受けている/悩みや生きづらさがある/状態を問わない(熱心な信者も含む)
④親の宗教的集団 「カルト」など特定の教団に限定/宗教教団全般(伝統宗教も含む)/スピリチュアルなど宗教教団以外も含む

といった点で、相違が見られた。

従来から用いられた「2世信者」は概ね①現役信者のみ、②2代目以降、③状態を問わない、④宗教教団全般、の意味であり4040「2世信者」は、猪瀬(2002)では①信仰を問わない、であり、報道においては④「カルト」など特定の教団に限定、の傾向があった。、「カルト2世」は、①②は共通するが、③虐待等を受けている/悩みや生きづらさがある、④「カルト」など特定の教団に限定、といった意味であった。

「宗教2世」という用語が2018年に報道の場に登場したとき、新宗教教団か「カルト」とされる教団に入信した親を持ち、カミングアウトの難しさや生きづらさを抱えている存在として用いられた。この時点では、問題があるとされる宗教の信者の子弟で、そのことで苦しい境遇にある人々に限った意味の用語であった。4観点から整理すると、①信仰を問わない、②2代目以降、③悩みや生きづらさがある、④「カルト」など特定の教団(新宗教)に限定、となる。

その後、2020年頃からできた「宗教2世」の当事者グループは、「教団名+2世」や「祝福2世」のような特定の教団の子弟を指す用語を避け、様々な教団の現役信者・脱会者らが広く連帯できるよう、より包括的な意味合いで「宗教2世」という用語を選び、使用し始めた。そのいずれも、①信仰を問わない、②2代目以降、の点では共通していた。

しかし、2020年の「宗教2世ホットライン」と2022年の「宗教2世問題ネットワーク」は、③状態を問わない、④宗教教団全般(伝統宗教も含む)、の2点で意味の拡大が見られた。逆に、2022年7月の署名活動「宗教虐待防止のための法律整備・体制整備を求めます。」は、③虐待等を受けている、④「カルト」など特定の教団(新宗教)に限定、であり、③では意味の縮小が見られ、2023年の「宗教2世支援センター陽だまり」においては、③虐待等を受けている、④宗教教団全般、であり、③については意味の縮小、④については意味の拡大が見られた。

宗教研究においては、塚田(2023)が、「宗教2世」は新宗教に限らず、身近な存在であり、無関心であってはならないという観点から、伝統宗教、更には「陰謀論」的集団、政治的集団、スピリチュアル・グループ、マルチ商法まで含んだ非常に広い定義を提起している。これは、①信仰を問わない、②2代目以降、③状態を問わない、④スピリチュアルなど宗教教団以外も含む、ということになり、最大限に意味の拡大がなされている。しかし塚田は、この定義に基づくと日本社会に暮らす人々全てがあてはまりうるとし、自らこの定義は広すぎるとしている4141そのうえで、日本にいる「宗教2世」の人数を推計するにあたっては、「自覚的信仰者」である約1200万人のうち、「2世」はその半数以上であるとして、600万人以上という数値を示した。この推計は、あえて分類すると①現役信者のみ、②2代目以降、③状態を問わない、④宗教教団全般(※団体ではなく「自覚的信仰者」)、になるだろう。。そのうえで、「宗教2世」であること自体に問題があるのではなく、彼らを取り巻く困難な状況を「「宗教2世」問題」として分離して論じることを提案した。

しかし、報道や当事者らの多くは、問題や困難を抱えた存在として「宗教2世」を用いる傾向があった。すなわち、③について「虐待等を受けている」または「悩みや生きづらさがある」に限定しがちであった。ときに、従来の「カルト2世」とほぼ同義の狭い意味で用いられる場合もあり、研究の側からも、釈(2023)など、あえて「宗教2世」という用語を用いるのではなく、「カルト2世」を使えば良いという主張も見られた。

「宗教2世問題ネットワーク」や塚田など、③を「状態を問わない」として意味を拡大している場合は、「宗教2世」に「問題」をつけることで意味を限定し、「宗教2世問題の当事者」という表現で、③が「虐待等を受けている」または「悩みや生きづらさがある」である一部の「宗教2世」だけを指すようにしている。それに対して、報道や当事者らの多くや、それに批判的な研究者は、③を「虐待等を受けている」または「悩みや生きづらさがある」に限定し、意味を縮小して「宗教2世」を用いたり、あるいはそれを「宗教2世」と呼ぶことは不適切として、別の用語を用いたりすることを主張していると整理できる。

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