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「宗教2世」をめぐる用語と意味の変遷

道蔦汐里氏

3.報道における用語とその意味の変遷

3-1 銃撃事件以前の報道の波と用いられた用語

本章では、公益財団法人国際宗教研究所 宗教情報リサーチセンター(以下、RIRC)の宗教記事データベース(以下、宗教記事DB)を使用して、銃撃事件以前・以後の全国紙・宗教専門紙・雑誌などにおける報道の分析を行う。

本章の分析に入る前に、「宗教2世」報道を分析した論考について振り返っておく。荻上チキ編著の『宗教2世』では、「4-2 データから見る「宗教報道」の変遷」において、銃撃事件以前と、以後の事件当日(7月8日)から9月8日までの2ヶ月間で、世界平和統一家庭連合(以下、統一教会)や「宗教2世」などに関する報道が、新聞やテレビにおいてどのように報じられたかについて分析している。銃撃事件以前の新聞報道の分析は、サンプルが朝日新聞のデータベースのみであり限定的なものとなっているが、「2世問題」についてはほとんど取り上げられてこなかったとしている。特にテレビ報道においては、「2世系のワード」を含んだ放映は1件もなかったとしている[荻上編著2022:333-334]。

一方、銃撃事件以後の報道に関する分析では、「宗教2世」だけでなく、「信仰2世」「2世信者」の表記も含んで検索を行い、新聞報道では朝日新聞、産経新聞、日本経済新聞、毎日新聞、読売新聞の5大紙について内容の分析を行っている。その結果、各紙とも記事数は少ないものの、「対策を打つべき重要な問題として位置付けている点で共通している」とした。またテレビ報道においては、事件当初は銃撃事件の被疑者(現・被告)が「2世」であることに着目する報道が主だったが、その後「2世問題」についてクローズアップされていったとしている[荻上編著2022:328-329]。

その後、荻上が所長を務める社会調査支援機構チキラボが、2023年5月30日付で「「宗教2世」支援政策についての世論調査、および「宗教2世」報道調査」を発表した。宗教関連報道の推移については、「Ⅱ.テレビ分析」「Ⅲ.新聞分析」の章で2022年9月8日から2023年3月8日までのテレビ・新聞報道を分析している。その結果、どちらの媒体においても「宗教2世」関連の報道は2022年度をピークとして減少傾向にあり、「宗教2世」当事者に関連した報道は特に12月がピークだったとした。

これらの調査は各媒体における「宗教2世」の報道について、量的に調査したものであり、銃撃事件以後の報道の関心の推移が分かるという点では有用といえる。しかし、銃撃事件以前の分析が非常に限定的であるため、連続性を把握することが困難となっている。

RIRCの宗教記事DBは、1984年12月以降、本格的には1989年11月頃以降に一般紙・宗教専門紙・雑誌で報じられた宗教関連の記事が約250万件蓄積されており、単語・日付などで絞り込み検索が可能なデータベースである99この宗教記事DBを使用した研究に櫻井(2014)、山口瑞穂(2023)などがある。なお、本稿において使用するデータは2024年3月末までのもので、最終検索日は2024年9月19日である。。全国紙に限らず宗教専門紙や地方紙、雑誌を含めた調査が可能となる点や、年毎の変化を追っていくことができる点、より高い網羅性と横断性の観点から宗教記事DBを使用することとした。なお、宗教記事DBで検索する際には前章で確認された「2世信者」「信仰2世」1010なお、前章においては森(2012)が「信仰2世代」と表記していたが、本章では荻上編著(2022)の調査と合わせるため、「信仰2世」の用語で検索を行った。「カルト2世」「宗教2世」(それぞれ「2」を「二」にしたものも含む)の4用語を抽出単語とした。なお、1件の記事に2単語以上出てくる場合もあるため、総数とは必ずしも一致していない。

>図1 「2世信者」「信仰2世」「カルト2世」「宗教2世」の記事件数(~2021年)図1 「2世信者」「信仰2世」「カルト2世」「宗教2世」の記事件数(~2021年)

図1は、銃撃事件以前の4用語の出現記事数をグラフにしたものである。報道の波が大きく3回(2002年8件、2014年7件、2018年25件)あり、2021年に「宗教2世」が「2世信者」を上回っている。この3回の波を追う形で、詳細を見ていく。

2002年には、「2世信者」が7件、「信仰2世」が1件登場している。『琉球新報』1111「社会との接点が判断材料ケアセンターの必要性も カルト問題が争点に」『琉球新報』、2002年4月8日夕刊、4。では、南山宗教文化研究所のシンポジウムが報じられており、『カルトの子』(文藝春秋、2000年)を著した米本和広によって「2世信者、特に親という最も頼るべき人がいなくなる脱会2世信者」への対応が最重要であると言及されている。また『しんぶん赤旗』1212「「若者への浸透」警告 対策連絡会 統一協会の違法活動批判」『しんぶん赤旗』、2002年9月7日、14。では、全国霊感商法対策弁護士連絡会(以下、全国弁連)の全国集会において「2世信者」が体験を語ったという記事や、『クリスチャン新聞』1313「「カルト集団における虐待」 体験を安心して語れる場が必要 日本脱カルト研が公開講座」『クリスチャン新聞』、2002年11月3日、2。では日本脱カルト協会によるシンポジウムの中で、「2世信者」に関する議論があったことを紹介している。また『週刊現代』や『FRIDAY』では、オウム真理教内の「2世信者」についても言及がなされている1414「新ステージ「正報師」を創設して君臨 上祐史浩「オウム真理教」乗っ取り!」『週刊現代』、2002年11月2日、64-66。「生き続ける"麻原信奉"と"世代交替" 乳児から中高生まで通う「オウム子供塾」の内実」『FRIDAY』、2002年11月22日、12-13。。これらの報道からは、約20年前からすでに「カルト」問題やオウム真理教における「2世信者」の存在とその境遇、支援の必要性について議論がなされていたということが分かる。しかし、その結果「2世信者」という用語は「カルト」問題と結びつけられたものとなっていった。また、「2世信者」の中に「脱会2世信者」が内包される用法も見られた一方、脱会した「2世信者」を「元2世信者」と表現する記事も見られ、「2世信者」に脱会者を含む使われ方も含まない使われ方もある状態であったが、いずれも脱会者を区別して扱うものに変わりなかったといえる。

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    長らくご愛顧を賜りありがとうございました。(2025.10.1)
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