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「宗教2世」をめぐる用語と意味の変遷

道蔦汐里氏

2014年には「2世信者」が5件、「信仰2世」が2件、「カルト2世」が1件登場している。ここでは主に『宗教問題』『FORUM21』『しんぶん赤旗』『中外日報』1515「祝福二世の苦悩 千葉県茂原市の女子高生行方不明事件」『宗教問題』、2014年2月28日、42-53。「統一教会系女性団体が目論む"純潔思想"の拡散」『FORUM21』、2014年9月10日、18-21。「霊感商法の被害拡大 対策弁連集会で実態報告」『しんぶん赤旗』、2014年9月20日、15。「全国霊感商法対策弁連が全国集会 統一教会元信者ら体験談」『中外日報』、2014年10月1日、3。によって、統一教会を中心に「2世信者」の問題が取り上げられ、当時も「カルト」問題の文脈での使用がほとんどであった。

2018年には「2世信者」が22件、「宗教2世」が4件、「カルト2世」が3件、「信仰2世」が1件登場している。目立つのはジャーナリストの鈴木エイトによる「勝共UNITE」の記事であり、引き続き統一教会を中心に「2世信者」の問題が報じられていた。またこの年は、2017年12月に出版された漫画『よく宗教勧誘に来る人の家に生まれた子の話』(講談社)が『ダ・ヴィンチ』の書籍紹介で報じられ、キリスト教の「異端」や「2世信者」問題として『キリスト新聞』『クリスチャン新聞』1616「いしいさやさんインタビュー 『よく宗教勧誘に来る人の家に生まれた子の話』」『キリスト新聞』、2018年5月21日、1-2。「親が信者ゆえに葛藤し 痛み抱える子のため祈りを」『クリスチャン新聞』、2018年2月4日、4。で話題となった。漫画の影響もあって、エホバの証人の信者を親に持ち、生きづらさを抱える子どもという「2世信者」という使われ方が多く見られた一方、「勝共UNITE」の記事のように、教団に従順で、組織活動に動員される「2世信者」という使われ方も見られ、「2世信者」の教団との関係に多様性が見出されるものとなっていた。

このように、2018年は統一教会やエホバの証人を中心とする「2世信者」に焦点が当てられた年であったが、それと同時に「宗教2世」が宗教記事DB上に初登場する年でもあった。銃撃事件以前の「宗教2世」の出現記事数は、2018年に4件、2020年に6件、2021年に10件、2022年(7月7日まで)に5件となっている。

「宗教2世」の文字列としての初出は、『仏教タイムス』が報じた、映画「息衝く」を紹介した記事1717「映画 新宗教2世の苦悩」『仏教タイムス』、2018年2月1日、6。であるが、単語としての初出は『AERA』の記事「時代を読む 宗教 ある「宗教2世」の告白 親がカルト教団の信者だったら」1818「時代を読む 宗教 ある「宗教2世」の告白 親がカルト教団の信者だったら」『AERA』、2018年3月5日、34-36。である。同記事では、ノンフィクション作家の中原一歩が、ものみの塔聖書冊子協会(エホバの証人)を表す「JW」や統一教会を表すとされる「FF」などの隠語を紹介し、「これらの隠語を使うのは、2000年以降に成人したり社会人になったりしたミレニアル世代の「宗教2世」だ」として「宗教2世」を説明している。また2018年には『週刊東洋経済』において、鈴木エイトが「宗教2世問題」を各紙に寄稿しているとする自身の紹介文を掲載しており、同氏による論考も『キリスト新聞』1919「統一教会(現・世界平和統一家庭連合)日本の苛烈献金が韓国の教祖一族を潤す」『週刊東洋経済』、2018年9月1日、52-54。「カルト被害に備えるために 統一協会の「今」」『キリスト新聞』、2018年4月1日、4-5。に掲載されている。ここでは、Twitter(現・X)における「2世」の声として「信仰のない宗教2世の苦悩をもっと世間に知ってほしい」とする当事者の声が取り上げられている。2018年当時では記事数が少ないものの、インターネット上で拡散される当事者らの声として「宗教2世」という用語が紹介された。

2020年には、「宗教2世ホットライン」(後述)が開設されたことを報じる『キリスト新聞』の記事や、その設立に関わったとされる人物に関する論考が『仏教タイムス』において紹介されている2020「「宗教2世ホットライン」開設 "生きづらさ抱える2世の居場所に"」『キリスト新聞』、2020年5月21日、3。「「宗教二世」の葛藤と苦悩を伝える論文(上)」『仏教タイムス』、2020年7月16日、2。「「宗教二世」の葛藤と苦悩を伝える論文(下)」『仏教タイムス』、2020年8月6日、4。。2019年においては0件であったことを考慮すると、この時期に「宗教2世」という用語が広まったと予想されるが、それでも報道は宗教専門紙が中心であった。また使用される用語も「2世信者」の方が多数派であった。この時点では、当事者らによる定義に基づいて「宗教2世」が用いられ、「カルト」に限らず宗教教団の影響を受けて育った2世という意味でも、脱会に関して悩んでいる2世という意味でも使用されていた。

そして2021年には「宗教2世」の出現記事数が他の類義語を上回った。また『朝日新聞』には塚田の先述の記事が掲載され、これが宗教記事DB上で確認できる、全国紙における初の報道となった。その他にも『仏教タイムス』が映画「星の子」を報じた記事、ジャーナリストの藤田庄市による「宗教2世問題」と題する記事、『月刊住職』におけるジャーナリストの段勲による創価学会の「宗教2世」についての連載が掲載されている2121「リアルな「宗教二世」物語 『星の子』を読む、観る」『仏教タイムス』、2021年1月21日、2。「宗教2世問題(上)」『仏教タイムス』、2021年8月19日、2。「宗教2世問題(下)」『仏教タイムス』、2021年9月16日、2。「本当の創価学会問題(113)」『月刊住職』、2021年10月1日、154-157。「本当の創価学会問題(114)」『月刊住職』、2021年11月1日、154-157。。また『中央公論』の鼎談では大谷栄一が、「新宗教の問題」や「カルト研究」の文脈で、最近では「宗教2世」の問題にも光が当たり始めたと言及している2222「鼎談 日本人は何を宗教に求めているのか」『中央公論』、2022年1月10日、98-107。。同号では、横道が先述の定義を紹介し、「宗教2世」問題の変遷やその盛り上がり、自身が取りまとめる自助グループについて述べている。このように2021年からは、研究者やジャーナリストらが、当事者らによる定義から離れて「宗教2世」を再定義したり、「宗教2世」という用語を用いて報道したりするように変化したといえる2323なお2021年にはNHKが相次いで「宗教2世」という用語を用いた番組を放映した。(2021年2月9日のNHK Eテレ「ハートネットTV “神様の子”と呼ばれて~宗教2世 迷いながら生きる~」、5月10日のNHK総合「逆転人生 宗教2世 親に束縛された人生からの脱出」、5月28日のNHK関西「かんさい熱視線 私たちは“宗教2世”見過ごされてきた苦悩」。)。「宗教2世」という用語に込められた意味に注目すると、①本人が現役信者であることを指すのか、脱会・離脱者も含むのか(意味の拡大)という点、②「宗教2世」であることに何らかの悩み・生きづらさを抱えている人のことを指すのか、否か(意味の拡大)という点、③親の所属する集団が宗教教団に限るのか、教団に限定しない(意味の拡大)のか、あるいは更に新宗教・「カルト」教団に限る(意味の縮小)のかという点において、すでに意味に変化とばらつきが生じ始めていたことが見て取れる。

以上を整理し、使用された用語の変化に着目すると、銃撃事件以前からいわゆる「カルト」問題の一環として、何らかの問題を抱えた信者の子弟については報道で取り上げられており、その際は「2世信者」という用語が用いられていた。その後2018年には漫画が話題となって報道が増加し24242018年以前にも「2世信者」に関する漫画は刊行されていた。2018年に報道が増加した理由としては、エホバの証人という教団の知名度や、事前にTwitterに投稿された漫画が大きな反響を得ていたことなど理由となった可能性が考えられる。、銃撃事件前年である2021年の塚田の論考によってようやく全国紙に「宗教2世」という用語が登場した。

また銃撃事件以前の報道における、用語の意味の変化に着目すると、「2世信者」は2000年代から「カルト」問題とセットで語られ、「カルト」教団の信者の、生きづらさを抱えた子弟という意味合いをまとっていた。脱会者を含んだ使われ方も見られたが、概ね含まれず、信者に限ったものであった。2018年頃には、悩みを抱える子弟だけでなく教団内で活発に活動する現役世代について用いる例も見られ、意味の拡大が生じてきていたといえる。

「宗教2世」は2020年頃から当事者らによる定義に基づいて用いられはじめ、伝統宗教も含んだ宗教教団の影響を受けて育った子ども全般という意味でも、とりわけ脱会に関して悩みを抱えている子どもという意味でも使用されていた。その後2021年頃になると、研究者やジャーナリストらが様々な定義で「宗教2世」という用語を使用し始め、意味の拡大・縮小が生じていくこととなったといえる。

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  • 「墨跡付き仏像カレンダー」の製造販売は2025年版をもって終了いたしました。
    長らくご愛顧を賜りありがとうございました。(2025.10.1)
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