「宗教2世」をめぐる用語と意味の変遷
5.「宗教2世」とその類義語の変遷
2章から4章にかけて、宗教学・報道・当事者らのそれぞれがどのように「宗教2世」やその類義語を用い、またそれらについて語ってきたのかについて、すべて網羅できたとは言い難いが、全体的な傾向を整理してきた。そのうえで本節では、3つの主体を横断し、使用された用語自体の変遷について総括する。
銃撃事件以前の宗教学や報道では、宗教教団に所属する信者の子弟について、主に「2世信者」という用語を用いて論じられてきていた。宗教学、特に新宗教における信仰継承研究においては、「(1世)信者」に対し、彼らから信仰を受け継いだ次の世代という意味で、比較的ニュートラルな意味合いで「2世信者」という用語が選択されたと考えられ、更にその次の世代を指す用語として「3世信者」という用語も使用されていた。一方で報道における「2世信者」という用語は、「カルト」問題に代表されるような何らかの問題視される出来事や議論と合わせて報じられる傾向にあり、「2世信者」という用語にもそうした印象が付与されたと考えられる。
そうしたなか当事者らは、対象を現役信者に限ったり、「カルト」問題とセットで語られたりする「2世信者」や「カルト2世」ではなく、「宗教2世」という用語を選択するようになっていった。
そして次第に、「宗教2世」当事者らの声が直接社会に発信されるようになると、報道においては「2世信者」から「宗教2世」へと選択される用語が変化していった。この動きに追随するような形で、宗教学においても「宗教2世」という用語が使用されるようになり、銃撃事件以前の段階ですでに宗教学・報道・当事者らは、微妙な定義の違いはありつつも「宗教2世」を使用するに至っていた。
なお、塚田が「宗教2世」という用語の使用を選択するに至ったのは、銃撃事件以前の論考において留保したように、必ずしも積極的な理由によるものではなかった。塚田が2021年に「宗教2世」の定義を示し、2023年にまた改めて「宗教2世」問題の定義を加えて提示しているのは、すでに当事者らによって使用され、人口に膾炙しはじめた用語を借用することが問題提起に繋がるとして、議論するための定義を示そうとしたためと思われる。
これに対し、宗教学においては「宗教2世」ではなく別の用語を使用すべきとする意見も見られた。それらの意見は、いわゆる「宗教2世」問題の当事者だけに意味を限定して呼ぼうとするものが多く、各論者が問題にしたい点の違いによって、「宗教2世」意識を持つ人や「カルト」宗教に限定するものなどの相違が見られた。
しかし、「2世信者」という用語を使って、これまでも信者の子弟を論じてきた信仰継承研究において、信者の子弟の脱会・離脱者を見過ごしてきていたという問題点が強く認識されたのであるから、彼らだけに限定せず、彼らを含めた信者の子弟全体に関心を向け、彼ら全体を包摂する用語・枠組みを用いて論じていく必要性や意義はあるといえるのではないだろうか。


