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「宗教2世」をめぐる用語と意味の変遷

道蔦汐里氏
2-2 銃撃事件以後の「宗教2世」論と用いられた用語

銃撃事件以後には、小見(2023)により塚田(2022)の「宗教2世」の定義を参照した論考が提出された。小見は、「宗教2世」という用語自体については「特定の宗教を信仰する家に生まれること自体を問題視しているのではない」としたうえで、「ここでの「宗教2世問題」とは、「親が特定の宗教を信奉しており、その宗教儀式や宗教活動の影響によって、子どもの養育、発育、成長に著しい障害が発生する問題」を指す」[小見2023:2]とし、キリスト教界における「宗教2世問題」とキリスト教教育の展望について述べた。このように、塚田が提示した「宗教2世」定義は学術的に参照され、伝統宗教における議論でも用いられた。また、塚田(2023)は先述の通り、『だから知ってほしい「宗教2世」問題』において、「宗教2世」の定義を改めて示し、「「宗教2世」問題」の定義を新たに示した。また、「カルト2世」を使用せず「宗教2世」を用いる理由として、「カルト2世」という表現を好まない当事者が少なからずいること、当事者の側から積極的に「宗教2世」という用語が使用されてきたことを挙げている[塚田2023:17]。これらの塚田の議論に対しては、小島が先述のような疑義を呈している。

また銃撃事件後には、これまでの信仰継承研究や教団、社会を振り返り、「宗教2世」やその問題が、なぜ扱われてこなかったのかを分析し、なかにはそれを反省的に論じる議論も見られた。塚田(2023)は「「1世―入信」を関心の中心に据えた社会、メディア、研究。そのなかで、2世は信仰を「継承」する存在であり、脱会者はその「入信」過程を批判的に捉え返す存在であるとの役割を担わされた」ため、「宗教2世」問題は蚊帳の外であったと指摘している[塚田2023:25]。また金子(2023)も先述のように、「宗教2世」問題が表面化してこなかったのは、信仰後継者育成の失敗事例として否定的に扱われ、教団の公的言説から意図的に隠蔽されてきたからであると述べている。

なお、これまで使用されてきた用語を継承する論考や、「宗教2世」以外の用語を使用すべきとする主張も見られた。櫻井義秀(2023)は「2世信者とは、近年日本で使われるようになった言葉である」とし、「2世信者」にも多様性があることに注意を払うべきだと主張した[櫻井2023:296-297]。また島薗進(2023)は「宗教2世」の中でも、その自覚をもち、「宗教2世」への呼びかけに応答しようとする人々を「宗教2世自覚者」と呼称している[島薗2023:182]。

一方、釈徹宗(2022・2023)は、主に報道で使用されてきた「カルト2世」という用語を採用すべきと主張した。宗教という用語が有する範囲の広さや、「宗教2世」という用語が使用される文脈を考慮して[釈2023:205]、「宗教2世」という表現が適切なのかどうかを問いかけ、「問題はカルト宗教教団であり、「カルト2世」の表現を定着させたほうがいい」77「旧統一教会対応 僧侶・宗教学者 釈徹宗さんに聞く」『朝日新聞』、2022年12月2日、28。また心理臨床学の分野では「カルト2世」という用語を使用した黒田文月(2007)の論文「家族の宗教問題で悩む青年期男性の心理療法―“カルト二世”からの解放と自立」(『心理臨床学研究』24(6), 664-674)もある。としている。これは、問題があるとされる「カルト宗教」とその他を分ける意図で使用しようとしていると考えられる88他にも、心理学の分野において坂岡(2024)は「葛藤の当事者を表す用語として「宗教2世」を採用する立場をとらない」として「親の宗教と葛藤する子」という表現を用いている[坂岡2024:196]。

以上のように銃撃事件以後に使用された用語と意味の変化に着目すると、「2世信者」や「カルト2世」などの従来の用語を従来の意味で使用した論考もありつつ、塚田による「宗教2世」の定義を踏襲した形での論考や、その定義について疑義を呈したり、新たな用語を付け加えたりする論考が出るなどして、「宗教2世」という用語も宗教学の研究で使用され、議論される用語の一つとなったといえる。

ただし、先述の通り脱会・離脱者も含む信者の子弟という意味での「宗教2世」という言葉は、宗教学上の分析概念・枠組みとして設ける必要性や意義があって作られたものではなかった。言葉が先行して生じ、一般に広まった後で、当事者への配慮などの結果選択され、研究側があとを追いかける形で、用語として意味を定義し直して使おうとしているものであるため、選択の動機は受動的で、必ずしも積極的ではなかった。とはいえ、塚田(2023)が指摘するように、信仰継承研究において、信者の子弟の脱会・離脱者を見過ごしてきていたという問題があり、それを認識・反省して「宗教2世」という観点を持とうとするのは、宗教に関わる社会の変化を分析しようとする宗教社会学のあり方として、妥当なものであるといえよう。

これに対して、新たな学術用語の設定を提案する論考には、「宗教2世」意識を持つ人に限定するものや、「カルト」宗教に限定するものなど、問題を抱える人々に意味を限定して新しい用語で呼ぼうとするものが多く、総じてより広い意味の用語を設定しようとすることに否定的であったといえる。

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