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「宗教2世」をめぐる用語と意味の変遷

道蔦汐里氏
4-2 銃撃事件以後の当事者らの活動と用いられた用語

銃撃事件後、早くから「宗教2世」という用語を用いた重要な運動の一つが、事件翌日の7月9日から開始された署名活動「【統一教会・人権侵害】宗教虐待防止のための法律整備・体制整備を求めます。#宗教2世に信教の自由を #宗教虐待 #StopReligiousChildAbuse」であろう。署名サイトの「問題の概要」には、「日本における一部の宗教信者の子ども(宗教2世)は「子どもが信仰を望まない場合でも宗教活動や信仰生活を強制させられる」問題を抱えています」との記載がある。統一教会やエホバの証人などの一部の新宗教における、本人は信仰を望まないが、親に強制されているという問題・困難を抱えた存在という、非常に限定的な意味で「宗教2世」が用いられている。この署名活動は、朝日新聞、東京新聞、産経新聞などの全国紙で報じられたことから、「宗教2世」という用語が急速に広まった一因であると考えられる。

また銃撃事件以後に特徴的な動きとして、いくつかの当事者団体が結成されたことがあげられる。2022年12月4日には、「宗教2世」の権利擁護を図り、「宗教2世問題」の撲滅を目的として「宗教2世問題ネットワーク」が設立された。同団体の設立趣旨書には、「宗教2世」や「宗教2世問題」という用語には様々な解釈があり、明確な定義はないとしつつも、「宗教2世」は「信仰を持つ親や家族のもとで育ち、当該信仰の影響を受けて成長した者及び現に成長している者」、「宗教2世問題」は「一部の宗教2世が親や家族、親や家族と同じ信仰を持つ信者から受ける、信仰を理由とした児童虐待やその他の人権侵害、及び生きづらさのこと」と定義している。ここでは、「宗教2世」はあくまで信者の子弟というだけの意味であり、それに「問題」という単語がつくことによって、一部の宗教2世が被っている児童虐待等の問題を表している。

その後も2023年3月5日には、「宗教2世」が抱える問題への支援に関する事業を行うことを目的として、一般社団法人「宗教2世支援センター陽だまり」が設立された3838一般社団法人「宗教2世支援センター陽だまり」の設立は2023年であるが、これは任意団体「エホバの証人ピアサポート陽だまり」が発展したものだという。。同団体の定款において「宗教2世」を「宗教2世もしくは3世、4世など親の宗教から社会的許容範囲を超えた影響を受けたもの」と定義している。この定義では、「宗教2世」自体を親とその宗教により著しく辛い境遇に置かれた存在と限定している。更に同年6月3日には、宗教虐待の防止を目指す一般社団法人「スノードロップ」が設立され、設立会見では「宗教2世の気持ちを理解」し、「2世問題の解決」に向けた活動を強化したいと語っている3939「信者2世問題考える 当事者ら団体設立でシンポ」『しんぶん赤旗』、2023年6月4日、11。

また銃撃事件以後には、漫画や手記、論集などの形で当事者らによる出版が相次ぎ、「宗教2世」という用語がタイトルに使用されたものが多く見られた。例えば、菊池真理子『「神様」のいる家で育ちました~宗教2世な私たち~』(文藝春秋、2022年)、冠木結心『カルトの花嫁:宗教二世 洗脳から抜け出すまでの20年』(合同出版、2022年)、横道誠編著『信仰から解放されない子どもたち―#宗教2世に信教の自由を』(明石書店、2023年)などである。

「宗教2世」やその類義語に着目してみると、2022年10月7日に日本外国特派員協会で会見を行い、「宗教2世」という存在を世間に印象付けたともいえる小川さゆりは、『小川さゆり、宗教2世』(小学館、2023年)の中で、自身を「2世」「祝福2世」「元2世信者」などと表現しつつ、書籍タイトルや著者紹介の欄では「宗教2世」を用いている。また正木伸城は『宗教2世サバイバルガイド―ぼくたちが自分の人生を生きるためにできること』(ダイヤモンド社、2023年)にて、自身を「宗教2世」「創価学会の2世」などと表現している。

また『みんなの宗教2世問題』(晶文社、2023年)において横道は、一般的にはカルト宗教とみなされない教団などがあるという理由から「カルト2世」ではなく「宗教2世」を採用し、「宗教2世問題」を「親が特定の宗教を信奉しており、その宗教儀式や宗教活動の影響によって、子どもの養育、発育、発達、成長に著しい障害が発生する問題と定義したい」としている[横道2023a:3-4]。

脱会・離脱した信者の子弟だけが活動を活発化させていたわけではない。銃撃事件以後には統一教会の「2世」による団体「信者の人権を守る二世の会」が発足し、2023年4月からシンポジウムを不定期で開催している。同団体の公式Xでは「家庭連合2世」による任意団体だと紹介している。

以上、銃撃事件以後の当事者らにより使用された用語に着目すると、銃撃事件直前の流れを受ける形で、「宗教2世」や「宗教2世問題」が積極的に選択されていた。一方で当事者らが自分個人を呼称する際や、明確に所属を表す際には「教団名+2世」などのように、特定の教団の子弟を指す用語を用いることもあった。「教団名+2世」は、銃撃事件以前から見られた表現ではあるが、「宗教2世」という用語が出てきたことにより、「宗教2世」として広く連帯したり、わかりやすく表現したりする際には「宗教2世」という用語を採用するなど、表現が差別化されている様子が見られた。

また用語の意味の変化に着目すると、銃撃事件直後から、本人が生きづらさを感じている、または虐待等を受けているといった、親などから人権侵害や何らかの抑圧を受けた存在として「宗教2世」が用いられることが多い傾向が続いていたことがわかる。本人の信仰状況については、現役信者と脱会・離脱者の両方を含むものが多いが、親の宗教については、統一教会・エホバの証人など、一部の宗教に限るものが多く見られた。「宗教2世問題ネットワーク」のような例外もあるが、総じて、2020年の「宗教2世ホットライン」の定義に比べ、大きく意味が縮小していることが見て取れる。「宗教2世問題」への関心の高まりの結果、報道と同様に、「宗教2世問題」当事者と「宗教2世」がほぼ同一視される傾向が見られたといえる。

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