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制御性T細胞発見と希望の光 医学と心の協調の時代へ

大阪大教授 稲場圭信氏

時事評論2025年11月19日 09時14分

大阪大学の坂口志文特任教授によるノーベル生理学・医学賞の受賞は、学術的栄誉にとどまらず、自己免疫疾患に苦しむ世界中の人々に具体的な「希望の光」をもたらした。筆者自身も難病を抱える一人として、この研究が切り開く未来を切実に感じている。いま私たちは、医学の進歩がもたらす革新的な希望と、宗教者による心のケア、すなわち精神的支えの重要性を深く認識する必要がある。

人間の免疫システムは本来、異物を攻撃して病気を防ぐものである。しかし、自己免疫疾患では免疫細胞が誤って自身の正常な細胞を攻撃し、暴走する。この暴走は意志の力では止められず、患者にとって大きな苦しみとなる。

私事で恐縮だが、筆者は数年前から自己免疫性内耳障害という難病を患っている。この疾患は、免疫システムが内耳の細胞を攻撃することで、進行性の難聴や耳鳴り、めまい、耳痛、頭痛を引き起こす。坂口教授が発見した「制御性T細胞」は、この免疫の暴走を抑え、バランスを保つ役割を果たす。この細胞を増殖させ、体内に戻すことで、自己免疫疾患の根本的な治療が可能になると期待されている。これは、免疫全体を抑える従来の治療とは異なり、暴走部分のみを選択的に抑制する副作用の少ない新しい治療法として、制御可能な希望を提示するものである。この発見は、がんやアレルギー治療にも革新的な可能性をもたらしている。

坂口教授の発見は、科学の力によって病のメカニズムを解明し、身体の暴走を制御する技術的希望を確立したものである。これは患者の治癒の可能性という未来への期待でもある。しかし、医学の進歩がもたらすのは身体的な解放や技術的希望にとどまる。難病患者の苦しみは、症状そのものに加え、孤独感や「なぜ自分が」というスピリチュアル・ペインに起因する部分が大きい。

ここに、寄り添い支援をする宗教者の役割がある。臨床宗教師は、布教を目的とせず、病院やホスピスなどで活動する専門職である。彼らの役割は傾聴と対話にあり、難病患者が抱える長期的な不安や死生観の揺らぎに深く寄り添う。

症状が不安定な難病においては、患者の心も容易に暴走し、絶望に苛まれる。宗教者は、患者の尊厳に敬意を払いながら、対話を通して精神的安定を支える。これは医学的な制御とは異なる、心の制御である。難病と向き合う中で、宗教者は患者の探求に寄り添い、病と共に生きる意味や新たな価値観を見いだす手助けをする。

宗教者による寄り添い支援は、患者の心の暴走を和らげ、精神的安定と生きる希望を提供するものである。今後は、医学の進歩と宗教者による心のケアを「全人的医療」の枠組みの中で融合させていくことが求められる。難病の克服は、技術力だけでなく、人間の尊厳と心の平安を両立させてこそ成し遂げられる。

坂口教授の受賞を契機に、改めて、医療と福祉、そして宗教者が協調し、難病患者の身体と心の双方を支える新たな時代の到来を強く期待する。この希望の光を、すべての難病患者が共有できる未来が遠くないことを信じている。

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