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宗教と文化の専門新聞 創刊1897年
中外日報社「宗教文化講座」

三木清 非業の死から80年(1/2ページ)

大阪教育大名誉教授 岩田文昭氏

2025年10月27日 09時18分
いわた・ふみあき氏=1958年名古屋市生まれ。大阪教育大名誉教授。京都大博士(文学)。専門は宗教哲学・浄土教思想。著書に『浄土思想』(中公新書)、『近代仏教と青年――近角常観とその時代』(岩波書店)、『フランス・スピリチュアリスムの宗教哲学』(創文社)、監修に『名宝で辿る 法然と浄土思想のすべて』(宝島社)など。
三木の思索の頂点なす著作

三木清(1897~1945)が豊多摩刑務所で非業の死をとげてから、今年で80年を迎える。彼が獄中で亡くなったのは、日本の無条件降伏から1カ月以上を経た9月26日のことであった。治安維持法違反容疑で拘留されていた三木の死は、戦時下の言論統制や思想弾圧を象徴する出来事として、多くの人々に衝撃を与えた。その死の公表を契機として、治安維持法が廃止されたのは、10月15日のことであった。

三木の死後、「親鸞」と題された200字詰め原稿用紙284枚分の草稿とメモが発見された。これらの原稿は、三木が1945年3月に拘留されるまで書き続け、絶筆となった遺稿である。

『人生論ノート』をはじめとする三木の著作は、現在も多くの読者を持ち、彼の思想研究も継続されている。しかし、この未完の遺稿「親鸞」は完成された著作ではないこともあり、三木哲学の中で十分に理解されてきたとはいいがたい。だが、三木の生涯を曇りなきまなこで見てみると、その早すぎる晩年に、親鸞について書いたのは不思議なことではないことがわかる。遺稿「親鸞」は、三木の哲学的思索の頂点をなす著作として準備されていたといっても過言ではなかろう。

三木の生地である兵庫県たつの市の霞城館に、遺稿「親鸞」の原稿が保管されている。その原稿には三木独特の筆致で、きわめて多くの推敲のあとが認められる。遺稿「親鸞」は岩波書店刊行の『三木清全集』第18巻に掲載されており、従来、三木の親鸞論を知るには、この全集本を拠り所にしてきた。ところが、全集本には編集上の課題や誤記が見られ、三木が原稿中に記した参照文献の調査も放置されていた。また、原稿全体の構造の分析も十分ではなかった。

遺稿『親鸞』を再翻刻

筆者は、こうした課題を踏まえ、三木の自筆原稿を新たに翻刻し、註釈と解説を加えた著作として『三木清「親鸞」』を本年11月に法藏館文庫より刊行する運びとなった。原稿を精読し注記を施すことによって、これまではわからなかった事実がいくつもわかってきた。

第一に、三木の思索が深化していく過程が具体的に読み取れるようになった。たとえば、親鸞の人間観を論じた第1章には三種の草稿が残されているが、そこでは「無常」から「罪悪」への強調点の移行が見られる。初期の稿では、「無常」を仏教における「基礎経験」として据えた論述がなされていたのに対して、後期の稿では「罪悪」を中心とする構成に変更されている。最終稿では、親鸞が「無常」について語ることが少ない点を指摘し、罪悪感の深さに着目する姿勢が鮮明になっている。こうした主題の変化により、親鸞の思想の倫理的・実践的側面を際立たせている。

三木は、無常思想が芸術的な観照や哲学的な思索へと展開する可能性を指摘しつつ、そうした立場が非実践的であるとして批判する。明示されてはいないものの、ここには西田幾多郎を代表とする「東洋主義的現実主義」の哲学に対する批判が含意されている。三木は、西田の哲学が観想的であり、実践的契機の捉え方が不十分だという批判を有していた。新たな時代にむかって、人間の行為の意味を親鸞の人間観をとおして三木は明らかにしようとしていた。

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