増大する電力消費 「原発依存」の未来でよいか(10月22日付)
原子力開発の研究者として若い頃は原子力平和利用の夢を抱いたこともある工学者の小出裕章氏は、福島第1原発の事故発生から4カ月後に『原発はいらない』という本を出版した。その発言に改めて注目するのは、生成AIの急速な普及で電力需要が増大し、原子力発電所からの電力調達が急務となっているからだ。
政府は国のエネルギー基本計画で「再生可能エネルギーと原子力を最大限活用」することを打ち出している。新聞各紙は、関西電力が原発建設を検討している美浜原発に関し福井県美浜町の町長が同社による地質調査を了承したことや、経済産業省資源エネルギー庁の幹部が、原子力規制委員会の審査に合格した北海道電力泊原発3号機について、再稼働への「理解要請」のため道や地元町村を行脚したことを伝え、「日本が原発回帰にかじを切った」と強調した。
原発からの電力調達拡大は日本だけの話ではない。8月4日付の『日本経済新聞』は「AIの電力、原発から調達」の見出しで「米テクノロジー大手が原子力発電所からの電力調達を拡大する。人工知能(AI)向けの電力需要をまかなうため、2040年までに掲げる数値目標は日本で稼働中の原発の総出力を上回る。米政府は原子力発電所の新設を後押ししており、新型原発の普及は日本企業の商機につながる」と1面トップで大きく報じた。小型モジュール炉という安全で低コストの次世代原子炉への期待も大だという。
小出氏は原発反対の理由を「ウランを核分裂させる限り核分裂生成物という『死の灰』を否応なく生み出す。燃やしただけで出る死の灰を無にする方法を人類は未来永劫見つけられないのではないか」と書いている。また物理学者の高木仁三郎氏は、生命の前提となる原子核の安定性を破壊することで得られる巨大で「非地上的」な核エネルギーの本質的な危険性を30年前に指摘している。
東京電力柏崎刈羽原発の再稼働に対する新潟県民の意識調査は、賛否がほぼ半々だった。原発推進は国論を二分する問題であり、また国のエネルギー計画が「原発の最大限活用」に依存した未来図であることを十分理解する必要がある。原子力の利用には巨大なリスクを伴うだけでなく、核のゴミ処理という解決の見えない問題がある。「原発に反対することは、地球に生まれたことに感謝し、犠牲になった生物のことを想い、原発エネルギーを使って得られた豊かさに『これでいいのか』と自問することだ」という小出氏の言葉を人類への警鐘と受け止めたい。