文化財をプラットフォームに国際平和を推進してきた 松浦晃一郎氏(88)
現在国内には26件が世界遺産に登録されている。その内訳は文化遺産が21、自然遺産が5件。アジア初のユネスコ事務局長に就任し、文化遺産の保護に加え、文化遺産を活用した国際平和と異文化の相互理解を推進してきた。多くの外国人が来日する現在、日本を世界に知ってもらう最大の好機と話す。
伊賀明
現在、日本各地に外国人観光客が来日し、いわゆるオーバーツーリズムが社会問題として顕著化しています。文化遺産としての宗教施設の保存と観光化のバランスについて、信仰の場としての尊厳をどう守るべきでしょうか。
松浦 まず、オーバーツーリズムについてお答えする前に、私が事務局長を務めたユネスコについてお話しします。ユネスコは教育、自然科学、人文・社会科学、文化、情報・コミュニケーションの分野から成り立っていて、この五つの角度からユネスコ憲章にある国際交流と相互理解の推進、そして世界平和の実現を目指しています。
今、京都は外国人観光客で大変にぎわっていますが、私が長らく住んでいたフランスの首都パリで例えると、パリでは市街地のうちセーヌ河岸一帯が世界遺産として登録されています。
その中心地に位置するノートルダム大聖堂は、カトリックの信者にとっては神聖な信仰の場です。私はキリスト教信者ではありませんから本当の意味での神聖さを感じることはできないと思いますが、それでもこの大聖堂を訪れるたびに神秘的な雰囲気や厳かさに毎回圧倒されます。
日本でも同じことがいえると思います。日本の文化遺産を訪れた外国人もその存在価値に圧倒されているはずです。なぜ圧倒されるのかと考えた時、宗教施設であればおのずと現代まで信仰が大切に受け継がれてきたことを知るでしょう。
オーバーツーリズムによって起こる諸問題の解決に向けた取り組みは必要ですが、観光客そのものを阻害することは絶対に避けなければなりません。
1998年に京都で開かれた世界遺産委員会で議長を務めた翌年から2期10年間、アジアから初の選出となるユネスコの事務局長に就任されました。世界の宗教遺産保護における課題とは。
松浦 カンボジアのアンコールワット、ミャンマーのパガン、インドネシアのボロブドゥールを世界三大仏教遺跡といっています。いずれもかなりの規模の遺跡が残っていて、世界遺産として保全が進められています。
特にアンコールワットは20世紀初頭からフランスが…
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