古典説話の世界に誘う語り部 満茶乃氏(44)

独特の妖しさが伴う淡々とした口調から、寄せては引くように何度も立ち上がる抑揚と感情表現が聴衆を物語の世界に没入させる。古典説話・怪談を中心にレパートリーは400話以上。古典へのこだわりは「伝えたい」という人間の営みへの深い共感と話す。
池田圭
SNSの発達などで自分が必要とする情報だけを刹那的に受容する在り方が問題になっている。「文脈」の喪失とも言える世相です。
満茶乃 コロナ禍の時期に生の公演ができなくなり、私も含めて動画配信で語りを行う人が増えました。それを視聴する人も多くなり、現代怪談がブームになりました。季節を問わず怪談を聞く人が増え、こたつでアイスを食べるような感じです(笑い)。
私は2014年頃から語り部として活動するようになったのですが、様々な語り部の方々が四六時中、動画配信をしていると「生で聞きたい」と求める人が多くなり、コロナ禍後は週末になると一つのライブハウスで7、8の公演が重なるような現象も起きました。
そうした動画配信や公演をきっかけに「点」として何かを知り、そこから世界が広がっていく。語り部の立場としては点でもよいので、まずは知ってもらうことが大事だと思っています。
動画配信時代のリスナーで今ではライブも聞きに来てくれる方も多い。そうした方々から物語にまつわる様々な質問が寄せられることがあり、そこにも「文脈」への認識を深めるきっかけがある。私は何を聞かれても答えられるようにいつも準備しています。
意地悪な質問をされても工夫を凝らして答えると相手の態度が変わってくることもありますね。情報過多の時代ですが、そうしたやりとりも大切だと思っています。
語りには「点」から世界が広がる作用があると。
満茶乃 私は古典説話のほかにも公演先の土地に伝わる伝承や昔話を取り上げることがあるのですが、「これまで知らなかった自分の地元の話を知れて良かった」と言われることが少なくないです。
それから古典説話の語りには表現し難い力が働いていると感じさせられることがあります。例えば『平家物語』の「鉄輪の女」は自分を裏切った夫への怨念を抱える女が鬼になる話ですが、語りの節目に山鳴りがしたり、雷が鳴ったりすることがある。
たまたまと言ってしまえばそれまでですが、そうとは言い切れないものを感じることがあります。人口に膾炙した「鉄輪の女」のような話には何らかの超自然的な…
つづきは2025年9月10日号をご覧ください