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中外日報社「宗教文化講座」

涅槃金

〈コラム〉風鐸2025年12月24日 09時02分

僧侶が旅に出る際に、途中で病気や不慮の死に見舞われて他人に迷惑をかけることを予想して、あらかじめ袈裟文庫や頭陀袋の中に入れておく若干の金銭を「涅槃金」と呼ぶ◆修行僧は修行に必要な最小限のものしか携帯することを許されない。もちろん必要以上の金銭を持つこともできないが、涅槃金だけは別とされている。万が一、行脚修行の途上で死亡したら、所持している涅槃金を使って自分の身柄を葬ってもらう。金額は数千円ほどのわずかな額のようだが、いつ死んでもいい覚悟で修行に打ち込むという意味も含まれているだろう◆今は亡き横浜・善光寺(曹洞宗)の黒田武志和尚から涅槃金の意味を初めて聞いた。黒田和尚は永平寺を下山して逆方向の列車に飛び乗ってしまい、その足で日本各地を托鉢行脚した時、空腹に耐えかねて涅槃金に手を付け、食いつないだ若き日の逸話を語ってくれた。自らの命をつなぐためのギリギリの選択である◆涅槃金という言葉には僧として生きる覚悟を物語る響きがある。禅僧が「本来無一物」の境地に生きる心構えを確認するための作法として受け継がれてきた行持ではないだろうか◆この世に裸で生まれ、空手にしてあの世に還るのが人間の本然たる姿であるのなら、涅槃金は社会的存在としての人間の実相を日々の行いの上に自覚し体現するものと言えるかもしれない。

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